「分子生物学」とはどんな学問分野なのか(システム生物学との対比として)?

最近ふと思ったことを書いてみます。

私はここ数年「システム生物学(システムバイオロジー・システムズバイオロジー・Systems Biology)」をやっていることになっています(自分ではそう言っています)。「システム生物学ってなんじゃい?」という疑問を抱きながら。そもそも私は分子生物学畑の出身です。ですが、その当時には「分子生物学」とは何かを意識せずにやってきました。ある教科書には「大腸菌を道具として使うのが分子生物学である」と書いてありました。しかし、これは分子生物学的の研究手法を表しているに過ぎません(今は大腸菌がなくても出来そうですし)。これが正しいとすると、分子生物学は研究手法によって定義される学問分野だということになります。

ところが最近、実際にシステム生物学という研究指向で研究をやり続けていて、逆に分子生物学のパラダイムがわかってきた気がしました。それは結局のところ、「ある生命現象を、そこに関わる分子群とそのつながりによる『分子機構』として理解しようとする分野」であり、「そこで働く分子(多くの場合にはタンパク質)とその機能を1つ1つ明らかにしていく研究指向」だということです。1つずつ明らかにしていくので、次のターゲットは明確です。次の「パズルのピース」を見つけるのです。だから、分子生物学の学会のセッションでの話題は、誰がいち早くどのピースを見つけるかに終始します。パズルの1つ1つを知らない人間にとっては、何が次に期待されているピースなのかさっぱりわからず、何が楽しいのかさっぱりわかりません。

そしてある程度ピースが分かり、全体像が見えてきたところでシステムとしての理解、システム生物学が始まるわけですが、その頃にはピースを見つけたい分子生物学者達の興味はどこか別の生命現象に向かっています・・・。ある研究者がその生命現象にこだわりがある場合には、引き続きその生命現象に残り分子生物学をつづけて残されたピースを探し続けるとともに、ピースの理解をより深める構造生物学や、生命現象の全体的な理解を目指してシステム生物学をやり、さらに理解を深めようとすることもあるでしょう。

これは、特定の生命現象の「研究の一生」と言ってもいいのかもしれません。

何か面白い生命現象が見つかる。しかし、その分子機構はまったくわからない。そこに分子生物学が勃興する。そこではたらく分子をとにかく同定し、そのつながりを明らかにしようとする。どれだけ沢山の・中心的な働きを持つ・面白い働きの分子を同定するか、競争が始まる。この時その分野は最も「ホットな分野」であると認識される。ひと通り分子とそのつながりが見つかれば、他の生物ではどうなっているのかを調べたり、応用へと続いていく。その頃にシステム生物学や構造生物学がやってくる。ただ、その頃にはその生命現象の「分子生物学」は終わり始めている。

言い切ってしまえばファージや大腸菌では「分子生物学」は終わりました。真核細胞の細胞周期もそうかもしれません。ですが、それらの分野の「生物学」が終わったわけではありません。違うパラダイムを持った生物学で、これらの生き物や生命現象にアタックすればよいのです。システム生物学はその1つでしょう。

ただ、パラダイムの違う生物学をやるときに重要なことは、現在本流の分子生物学とのパラダイムの違いをしっかりと分かっておくことでしょう。分子生物学のパラダイムにいる人に「何がわかったのか?」と問われた時、それは特定の分子やその機能に対する発見を問われている可能性が高いことになります。それをわかった上で、自分たちの発見の面白さに共感してもらえるような命題と結論の提示方法を考えなければなりません。

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