コドンの最適度はmRNAの安定性を決める主要な要因である。

Codon optimality is a major determinant of mRNA stability.

Presnyak V, Alhusaini N, Chen YH, Martin S, Morris N, Kline N, Olson S, Weinberg D, Baker KE, Graveley BR, Coller J.

Cell. 2015 Mar 12;160(6):1111-24. doi: 10.1016/j.cell.2015.02.029. PMID:25768907

研究室のI君が研究室のセミナーで紹介した論文です。

生物の持っている情報の使われ方で(ほぼ)完全に解明されているものは、「4種類の塩基からなるDNAの配列と、20種類のアミノ酸からなるタンパク質の配列との対応関係」だけだと思います。これは、3つの塩基配列を単位として作られる遺伝暗号(コドン)が、それぞのアミノ酸に対応するという「コドン表」に集約されています。コドンの対応付けを行う分子実態は、それぞれのコドンに対応したtRNAです。

コドン表を見ていて気づくことは、1つのアミノ酸が複数のコドンによってコードされているということです。DNAは4つの塩基からなるので、その3つの組み合わせは、4x4x4 = 64通り、アミノ酸は20種類なので、単純に計算すれば1つのアミノ酸は平均して3つ以上のコドンにコードされる事になります。同じアミノ酸をコードする別々のコドンを「同義コドン」と言います。

上記のように、コドンは情報としてほぼ完全に解明されているので、(生物)情報学の格好の解析対象となりえます。新しい実験データが得られた時に、「生命現象が同義コドンの使われ方で説明できないか」という情報学的解析は古くから繰り返し行われてきました。

例えば、「細胞の中でたくさん作られているタンパク質と、あまり作られていないタンパク質では、好んで使う同義コドンの種類が違うのではないか?」

答えはYESです。30年以上前に明らかになっています

ではその違いを生み出すものはなにか?

30年前の同じ論文で、それぞれのコドンに対応するtRNAの存在量と関係があることが示されています。つまり、たくさん発現しているタンパク質は、細胞内にたくさん存在しているtRNAを好んで使う。・・・その方がタンパク質合成(翻訳)のスピードが早いからだ、と理解できます。

この他には、「生物種によって好んで使う同義コドンは異なっている」という、「コドンバイアス」という重要なパラダイムがあます。ある生物の遺伝子を別の生物に移してタンパク質を大量に作らせようとするときには、その生物が好んで使うコドンに配列を最適化させてやる必要があります。

さて、30年前に発見された、「たくさん発現しているタンパク質は存在量の多いtRNAを使う。それは翻訳の速度が早いからだ。」という考え方は、新し実験データが出る度に疑問が投げかけられ、最終的には正しかったということになっています。

近年、「リボソームプロファイリング」という革新的な実験技術が開発されました。リボソームが、細胞の中でどんな遺伝子をどれくらいのスピードで翻訳しているかを一網打尽にできる技術です(本ブログでもかつてこの技術を用いた発見について紹介しています)。

この実験から、「細胞の中でそれぞれのコドンはどれくらいのスピードで翻訳されているのか」、を調べることができます。それで調べてみたら、「たくさん発現するタンパク質が好むコドン(=存在量が多いtRNAのコドン)と翻訳速度には相関はない」という結果になりました。ところが、翻訳の開始やリボソームの停滞などの翻訳中の例外的事象を除いて調べなおしてみたら、やっぱり、「tRNAの存在量が多いコドンは速いスピードで翻訳されている」、という結論になりました。今や、この情報をもとに細胞内のすべてのタンパク質の翻訳をコンピュータ・シミュレーションできるようになっています。

要するに基本的な考え方として、「tRNAの存在量が多いコドンは、翻訳のスピードが早い。だからたくさん発現しているタンパク質は、存在量の多いコドンを好んで使う。」というのは間違いがないようです。

さて、前置きがだいぶ長くなりました。

この論文でも新しいデータ、「細胞の中でmRNAがどれくらいの速度で分解されているか(mRNAの半減期・安定性)」を、転写を止めてから段階的にmRNAの存在量をRNAseqでを取得しました(これまでもこのような解析は行われていたのですが、以前の解析は、mRNAのみを集めるためにpoly(A)を使っていたことで、結果にバイアスがかかっていたようです)。

結論として、「mRNAの安定性を決めているのは、同義コドンの使われ方である」という、非常に面白い結果が得られました。

「半減期の長いmRNAは、たくさん存在するtRNAのコドン(しばしば「最適コドン(Optimal codon)」と呼ばれる)を好んで使い、半減期が短いmRNAは、最適でない(non-optimal codon)を好んで使っている」、ということです。

mRNAの安定性を決める要因は、これまでは非翻訳領域、特に3’末端の非翻訳領域とそこに結合するタンパク質の作用によるものだと考えられてきました(私もそう思っていました)。ですが、非翻訳領域で説明できるのは一部の遺伝子のみで、大半の遺伝子については謎だったのです。

それが、コドン使われ方でほとんどすべて説明がついてしまうことがわかった。これはまさに歴史に残る発見だと思います。

この背景となっている分子機構の解明はこれからだと思いますが、、リボソームの進行速度とRNA分解酵素のmRNAへのアクセスしやすさで説明できる気がします。

「コドンの最適化」は、翻訳効率を上げるだけではなくてmRNAの半減期も長くさせる効果があって、最終的なタンパク質の発現量を大きく増やす結果になっているというわけですね。・・・コドン侮りがたし。

2 Comments

  1. TM

    この論文、アブストを読んで、読みたかったけれどPDFを落とせなかったので、概説、助かりました。経験知がクリアに明示されていくサイエンスの醍醐味を堪能できますね。

    Reply
  2. Kito

    コドンの使われ方が発現量以外にも影響するのは大変興味深く、
    私も次回のラボ内セミナーで紹介しようと思っていたところでした。
    Ribosome densityは翻訳速度をどの程度反映しているのか、前から疑問に思っていましたが、turn off assayでコドンの種類による翻訳速度への影響をきちんとみていたのも良いですね。

    少し前に、コドンの使われ方で面白い報告がありました。
    Pechmann S, Chartron JW, Frydman J.
    Nat Struct Mol Biol. 2014 Dec;21(12):1100-5.
    doi:10.1038/nsmb.2919.Epub 2014 Nov 24.PMID: 25420103
    Signal recognition particle(SRP)に強く相互作用するタンパク質のコドンを調べてみると、signal sequenceからribosomal tunnelの長さだけ下流の領域で、翻訳速度の遅いコドンが集まっている、というものです。
    ちょうどリボソームからsignal sequenceが出てきたときに翻訳速度が遅くなり、SRPと結合するための時間をかせぐ、といった解釈です。

    Reply

Leave a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です