「赤色蛍光タンパク質 yEmRFP/mCherry が切れちゃう謎」が解決した

蛍光タンパク質は今の分子生物学実験にはなくてはならない重要なツールです。一番初めに見つかった蛍光タンパク質は下村脩先生が発見したクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP、図1)で、様々な研究に使われているのはご存知のことかと思います。

3D printed GFP

図1. 3DプリントしたGFP。本エントリーとは直接関係ないが、かわいい。

 

GFPにつづいて様々な特性を持った蛍光タンパク質が続々と発見・開発されています。いろいろなカラーの蛍光タンパク質はその一つですが、同じ蛍光タンパク質と言ってもだいぶ特性が違ったりするので、GFPと同じつもりで扱うと実験が思ったように行かないこともあったりします。例えば、「蛍光タンパク質によって細胞毒性が違うよ」、といった論文もあります。

私たちはGFPを酵母が死ぬほど発現させてみるといった実験を行っているのですが、赤色蛍光タンパク質(yEmRFP/mCherry*)を使っても同様な実験をしています。

*yEmRFPは、酵母のコドンに最適化したmCherryです。yEmRFPとmCherryはタンパク質としては同じものです。

さて、ある時、yEmRFPを大量発現している酵母の全タンパク質をLDS-PAGEで電気泳動してみました。すると、yEmRFP(26.7kDa)と同じサイズのタンパク質に加えて、サイズの小さなバンドが2本見えました(図2、紫色の矢印)。

Electrophoresis of yEmRFP/mCherry

図2. yEmRFPの電気泳動。切断された小さなバンド(紫色の矢印)が見える。

 

これらのサイズを足すとちょうどyEmRFPと同じになるので、下の2本のバンド切断されたyEmRFPではないかと思いました。酵母の研究者メーリングリストで問い合わせた所、yEmRFPが切れることをご存知で、だけどどこで切れるのか、それをどうしたら解決できるのかがわからないという研究者の方がいることがわかりました。

それなら自分たちで切れているところを特定してみよう、ということでタンパク質の質量分析の専門家である明治大学農学部の紀藤圭治先生にお願いして、上記のBand1とBand2のアミノ酸配列の解析を行っていただきました。

結果の詳細はここでは割愛しますが、図3の灰色の線の中のどこかで切れているということまではわかりました。しかし、場所をはっきりと特定することはできませんでした。

Structure of yEmRFP

図3. yEmRFPの1次構造。質量分析の結果、黒線のどこかで切れているということまではわかった。赤で囲まれた部分が発色団を形成するアミノ酸。

 

それが昨年2014年の4月頃。これ以上深入りするのは難しいと考え、このプロジェクト(?)は一端ペンディングとなりました。

それがまた動き出したのは、ひょんなきっかけからです。

今年2015年の11月にシンガポールで開かれた学会に参加した時に、知人に紹介していただいた早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所(WABIOS)の北口哲也先生の研究室を訪ね、北口先生の研究についてお話いただきました。北口先生は蛍光タンパク質の専門家でした。

それで北口先生なら何かご存知かもしれないと思い、「yEmRFPが切れる謎」についてお尋ねしたわけです。北口先生も切れることはご存知でしたが、どこが切れるかはご存知ではありませんでした。

ただ、「(専門家なので)質量分析の結果を見ればどこか特定できるかもしれない」とおっしゃっていただきました。ということで、帰国して質量分析の結果をお送りし、どこが切れているかの予想をたてていただきました。

北口先生の予想は、「発色団の近くで切れている」というものでした。蛍光タンパク質は、図3の赤色で囲んだアミノ酸どうしが化学結合を起こして発色団を自律的に形成する特徴があります。ある種の蛍光タンパク質では、これに引き続いてアミノ酸内部のバックボーンが切れるらしいのです(図4)。yEmRFPの切断もきっとこれだろうということでした。さすが専門家、あっという間に場所を特定です。

Fluorophore

図4. 蛍光タンパク質の発色団の形成。アミノ酸のバックボーンが切れるものもある。Chudakov 2010より。

 

で、じゃあどうしたら切れなくなるか、ということなのですが、北口先生の最終的な助言は、「発色団のアミノ酸のYをGに変えれば、発色団が形成されなくなりきれなくなるだろう(1)。それでも切れたら別のところが切れている(2)。」というものでした。

もし1だったら:切れる謎は解けるから嬉しいんだけど、蛍光を持たなくなっちゃうのでRFPとしては使えないので悲しい。

もし2だったら:まだ謎は解けないけど、切断されないRFPを作れるかもしれないので嬉しい。

という事になります。ということで、YをGに変えた変異(Y72G)を作ってみました。図5は酵母細胞です。yEmRFPをたくさん作っている酵母(左から二番目)はピンク色なのですが、Y72Gを作っている酵母(一番右)では色がつかなくなっています。

yEmRFP mutants

図5. yEmRFPを発現している酵母。 左から、コントロール(yEmRFPを発現していない酵母)、yEmRFPを発現している酵母、Q71M変異(今回は関係ない)、Y72G変異を発現している酵母。

 

そして、ドキドキしながらタンパク質を電気泳動してみます。その結果は・・・。

yEmRFPとその変異体を大量に発現している酵母細胞の全タンパク質を解析した。Y72G変異では切断されたバンド(紫色矢印)が見えなくなっている。

図6. yEmRFP変異体の解析。yEmRFPとその変異体を大量に発現している酵母細胞の全タンパク質を解析した。Y72G変異では切断されたバンド(紫色矢印)が見えなくなっている。

 

切れなくなりました〜(図6のY72Gです)。

ということで、北口先生が考えたように発色団の近くで切れているということになりそうです。残念・・・だけどとにかく謎が解けたことは良かった。論文にする程の結末ではなかったということで、このブログのネタにさせていただきました。

ちなみに北口先生によると、「この発色団の近くでの切断では蛍光タンパク質の3D構造は崩れない(細胞内でタンパク質がバラバラになることはない)ので、蛍光タンパク質として利用する分にはたいてい問題ない」、とのことでした。

専門家に意見を伺うことは本当に大事、というエントリーでした。ご協力いただいた紀藤先生、北口先生どうもありがとうございました。

 

ーーーー

余談ですが・・・私は以前別の目的でyEGFPの発色団の変異Y66Gを作ったことがあります。図2でも示しているように、yEGFPの切れたバントは全タンパク質の解析では見えないのですが、図7の紫矢印のようにウエスタンブロットでは切れたと思しきバンドが少し見えることがあります。これが、Y66G変異では見えなくなっています。yEGFPもわずかではありますが、発色団形成後にバックボーンが切れるのかもしれません。

yEGFP-Y66G変異のウエスタンブロット解析

図7. yEGFP-Y66G変異のウエスタンブロット解析。yEGFPも少しは切れているのかもしれない。

 

ーーーー

20160120追記

この後もいろいろ調べてみたのですが、蛍光タンパク質(の変異体など)が発色団あたりで切れる現象はよく観察されているようです。また、「RFP(dsRed)はボイルしたらは発色団あたりで切れる」というのが初期の研究でわかっていたようです。ですので、RFPは in vivo(in yeast)では切れていなくて、SDS-PAGEで解析する時に切れているようです。

「実験を始める前に文献をしっかり調べろ」ということではあるのですが、科学研究が大きく広がっている現代ではなかなかすべてを調査することは難しい現実もあります。専門家の意見を聞いたり、実際に実験をしてみたりしながら過去の知見を自分たちの知識として蓄えていくという過程も必要かと思います(言い訳ではありますが)。

 

Leave a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です