トランスポゾンによるローラー作戦でゲノムの機能領域をマッピングする

Functional mapping of yeast genomes by saturated transposition. Michel AH, Hatakeyama R, Kimmig P, Arter M, Peter M, Matos J, De Virgilio C, Kornmann B. Elife. 2017 May 8;6. pii: e23570. doi: 10.7554/eLife.23570. PMID:28481201

昨年フロリダで開かれた北米遺伝学会で聞いた研究の中で、私にとって一番インパクトの強かったものが論文になったようです。

簡単に言うと、出芽酵母のゲノムに大規模にトランソポゾンを挿入する(Transpositionさせる)ことで、ゲノム上の機能領域を明らかにしていくというもの。

ゲノム上のある位置にトランスポゾンが挿入された酵母株が得られる場合にはその挿入位置は非必須領域と言え、ある位置にトランスポゾンが挿入された酵母株が得られない場合にはその挿入位置は必須領域と言えます。

これをとにかく大規模にやると酵母ゲノムの必須領域と非必須領域がマッピングされることになります。今回、大規模なトランスポゾンの挿入(およそ100万のコロニー)とハイスループットシーケンサーによる挿入位置の確認により、40bpという高解像度でのマッピングを行うことに成功しています。

今回の研究では、通常の増殖条件での挿入/非挿入による非必須/必須領域のマッピングの他、別の遺伝子の破壊株における特定のゲノム領域への挿入/非挿入(遺伝的相互作用)、さらに薬剤存在下での挿入/非挿入による薬剤の作用機序の解析なども行われています。

 

いわゆる「順遺伝学(Forward genetics)」の時代には、ゲノム上にランダムに変異を導入して、それによって起きる表現型により変異株を選択することで遺伝子の機能を探ってきました。それがポストゲノムの「逆遺伝学(Reverse genetics)」の時代になると、遺伝子領域と推定される部位を狙って破壊し、その破壊株の表現型を(時には大規模に)解析するようになりました。出芽酵母ではすべての遺伝子領域が破壊された株のセットが構築されて研究者の間で常に利用されています。

後者の利点は解析の網羅性の高さにあるわけですが、未知の領域がゲノム上にある場合には研究対象から抜け落ちてしまっているという欠点があります。また、必須遺伝子の破壊株は必須であるがゆえに存在しないので、その解析ができないということになります(温度感受性株などを使えば解析は可能です)。

今回の新しい解析は、順・逆遺伝学のいいとこ取りをしたものといえます。ランダムであるが網羅性が高い。必須遺伝子も、「挿入がない」ということでマッピングできる。

実際、今回の解析では、必須領域は、「トランスポゾン挿入の空白地帯」として綺麗に見えてきます。さらに、これがこの研究の大きな利点の一つですが、必須遺伝子の中の非必須領域(ドメイン)を明らかにすることにも成功しています。必須とされる遺伝子の前半や後半部分が増殖に必須でない場合には、そこにトランスポゾンの挿入がみられます。今回の解析では複数のそんなケースを報告しています。これは逆遺伝学の「狙った遺伝子破壊」では絶対に取れないものだといえます。

しかもこの解析では、4000株の破壊株セットを扱うような大変な作業は必要なく、「トランスポゾンが飛ぶ株をトランスポゾンが飛ぶ条件で培養する」だけで良いのです。あと必要なのはハイスループットシーケンサーのみ。これまでロボットを使って一生懸命株の掛け合わせなどをやっていた手間から考えたら圧倒的に楽でコストも低い。

「今後の酵母遺伝学はまた次のステージに入ったぞ」と、この発表を聞きながら私は思ったのでした。

 

とまあ、「いい事ずくめ」のように思うわけですが、実際には1つの解析のために240枚の寒天培地から100万のコロニーを回収する必要があるようです(それなりに大変)。さらに、技術的な問題でトランスポゾンの挿入に関してあやふやな結論しか出せないところがあり、そのせいだと思いますが、「これまでに知られていない必須領域」というのはこの論文では新たに報告されていません。

今後、この技術が研究者の間に広まれば、それに応じて改良されて上記の問題点も解決していくのかもしれません。そうなると本当に酵母の遺伝学は次のステージに入ったと言うことになるのでしょう。

 

それにしてもトランスポゾンでこんなことができるなんて驚きました。私自身、学生時代にトランスポゾンを使った技術を使っていたというのに・・・。

ちなみに、この技術が使われたのは初めてなのかと思っていたのですが、実は2013年すでに分裂酵母で同じコンセプトの研究がされていたようです。それが引用されていなかったようで、eLifeのComment欄にクレームが(?)書き込まれています。著者らはそれに応答していて、最終版にはちゃんと引用が入っています。普通に考えたら絶対に気づいていたはずで、それで引用していないとなると著者らは少し不誠実だったということになりますね。そういうのが見えてくるのもComment欄のある論文誌のいいところ(?)なのかもしれません。

 

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