大腸菌の形質転換ではヒートショックも後培養もいらない(こともある)

エントリー名、少し変えました(旧エントリー名「大腸菌の形質転換ではヒートショックも後培養もいらない」)。内容もコメントに合わせて若干修正しています。


大腸菌の形質転換(トランスフォーメーション)には、おもにケミカルなもの(カルシウムイオンで処理するなど)とエレクトロポーレーションがあります。ケミカルトランスフォーメーションの標準的なプロトコルは、大抵以下のようになっています。

コンピテントセルとプラスミドDNAを混ぜて氷中で30分、ヒートショック42℃・30秒〜90秒、氷上で2分ほど、LBやSOC培地を加えて、37℃・1hr培養、抗生物質入りのプレートに撒く。

私も大学4年生のときにこのプロトコルを先輩から教わり、それぞれのステップにどんな意義があるかも教わりました。少なくとも当時の研究室で初めて形質転換をやる学生は、このプロトコルを刷り込まれたものと思います。

詳しいメカニズムについては結局まだ分かっていないのだと理解していますが、ヒートショックで膜電位が変わる際にDNAが細胞内に入るのだという仮説もあるようです(おそらく話の出処は文献1)。

それは良いとして、とりあえず、このプロトコル最低でも1.5時間はかかります。プラスミド抽出やらライゲーションやらを終えて形質転換を始めると、大抵夜になってしまう。大学院時代の夕方〜夜はいつも形質転換の時間帯でした。

ところがある時、ある論文が発表されました(1996年ー今から20年以上前です)。タイトルを訳すと「5分でできる高効率な大腸菌の形質転換(文献2)」。

コンピテントセルとプラスミドを混ぜて氷上5分、37℃に温めておいたプレートに撒く

これだけ。はじめ論文を読んだ時は、「ウソやろ!」と思いました。そりゃ先輩から意義も含めてしっかりと刷り込まれていたのですから、そんな馬鹿なと思うのも無理はありません。

半信半疑で実際にやってみたら、「うわちゃんとコロニー出る! 俺の今までの1.5hの連続は何だったんだ!

スティーブ・ジョブズは、「パソコンの起動時間を10秒縮められたら、年間3億時間、100人以上の人生に相当する時間が節約できる」と言ったそうです。大腸菌の形質転換のせいで、何人の若い研究者の青春が必要のない待ち時間で費やされてきたことか。標準プロトコルを作った人の罪は大きい。そして、その神話を語り継いできた「先輩」達の罪も・・・。

すぐに近所のラボの人たちにもこのプロトコルを広めようとしたのですが、しばらくはみんな試そうともしませんでした。たった一枚プレートを余分に撒くだけなのに。それほど、刷り込み(あるいは洗脳)は強かったのです。

ここで断っておきますが、標準プロトコル、それはそれで意義あるものだと思います。遺伝子ライブラリーの作成など、非常に高い効率が求められるケースがあります。プラスミドが巨大だったり、菌株によっては形質転換効率が悪いものもあるでしょう。抗生物質によっては後培養が必要です(補足4)。そういう困った状況の時に、効率を上げるための努力として何ができるのかを知っておくのは良いことです。それを知っているかどうかがプロとアマチュアの違いといえるかもしれません。

ただ、そんな高効率が必要とされていない通常の遺伝子クローニングの現場では、この1.5hrは、ただの無駄な時間です。まぁ、「待っている間に論文を読んだりデータ整理したりすれば時間は無駄ではない」と言えるかもしれず、ラボに学生を拘束するよい言い訳にはできるかもしれませんが・・・。

話を戻しましょう。

それからというもの、このプロトコルを疑い、どれだけ手を抜いてもうまくいくのかを試すようになり、結局、「氷上5分もいらない、プレートを温めておく必要もない」という1分プロトコルができてしまったのでした。最近でもまだ、「ヒートショックが必要ない」ということをちゃんと調べただけで論文になったりもしているようで、洗脳を解こうとする努力は続いているようです(文献3)。

そして、この話には続きがあります。後培養が必要ないのは、ケミカルトランスフォーメションだけではなかったのです。

私が先輩から聞いた神話には、「エレクトロポーレーションは、高電圧をかけて細胞に穴を開けプラスミドを細胞内に入れる。細胞はボロボロになるので、後培養は絶対に必要だ」というのもありました。研究室でエレクトロポーレーションを多用するようになってから数年、ずっとこれを信じてやってきました。新しく来たラボメンバーにはそう伝えて実験をやってもらっていました。

ところがある日、ラボでのキャリアの長い博士課程の学生に聞いてみると、「え?! 私、後培養してませんけど、それでコロニーちゃんとでてますけど?

・・・マジかよ!! 俺もみんなの青春の時間を奪ってたんじゃん!!

これに反省して、酵母からDNAを抽出するプロトコルも検討してみたら、これまた1時間近く短縮できてしまいました(マジかよ!x2)。

語り継がれてきたプロトコルには、最適化がなされていない、全然必要がない手続きがあって、それに無駄な時間を費やしている事があります。「なんかこの時間無駄な気がする」、と思ったら1つ余分な実験を入れてみて、プロトコルの外側に飛び出すのも良いかもしれません。

補足1:この後培養が必要のない形質転換は、アンピシリン耐性では間違いなく問題ありませんが、カナマイシンは後培養がないとダメです。なので使う抗生物質によっては注意が必要かもしれません。(Twitterで、Kanでもうまくいくとのコメントがありましたー補足4参照)。

補足2:なぜか「ヒートショック不要なコンピテントセル」というものが売り出されています。いやそもそもヒートショック必要ないんですけど・・・。

補足3:昨日やってみた実験の結果をつけておきます。pUC18でTOP10株を形質転換、LBampプレートに撒いています。左が1分プロトコル、右が標準プロトコル(1.5hr)です。

形質転換体のコロニー。左が1分、右が標準プロトコル。コロニーが見やすくなるよう画像補正してあります。

補足4:東洋紡のコンピテントセル(Competent Quick DH5α)のプロトコルでは、氷上5分、ヒートショック42℃・30秒でプレートに撒くと記載されています。さらに、抗生物質の違いとSOCによる後培養の効果が調べられています。Kanでは培地のカナマイシンの濃度が高すぎてはだめ、TetやCmなどを用いる際には後培養が必須のようです。すべての抗生物質に対応できるのが標準プロトコルの良さということのようです。


文献

  1. Role of membrane potential on artificial transformation of E. coli with plasmid DNA. Panja S, Saha S, Jana B, Basu T. J Biotechnol. 2006 Dec 15;127(1):14-20. Epub 2006 Jun 23. PMID:16876281
  2. High efficiency 5 min transformation of Escherichia coli. Pope B, Kent HM. Nucleic Acids Res. 1996 Feb 1;24(3):536-7. No abstract available. PMID: 8602370
  3. Impact of heat shock step on bacterial transformation efficiency. Rahimzadeh M, Sadeghizadeh M, Najafi F, Arab S, Mobasheri H. Mol Biol Res Commun. 2016 Dec;5(4):257-261. PMID:28261629
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  1. Pingback: 大腸菌の形質転換のプロトコル、見直してみては? – Got it! Lab.

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