酵母の遺伝子ライブラリーあれこれ (1)

このエントリー(シリーズ)では、出芽酵母(S. cerevisiae)の遺伝子を対象として作られてきた(そして手に入る)遺伝子ライブラリーについてまとめていきたいと思います。長くなったのでエントリーを分けて書いていきます(最後に統合するかもしれません)。


分子生物学では、「遺伝子ライブラリー」というものが用いられます。「遺伝子ライブラリー」と言ってもその構成はさまざまで一言で定義するのは難しいのですが、一般的には、「対象とする生物のDNAの断片が、なるべく網羅性高くベクターに組み込まれたもの」という感じでしょう。

ライブラリーはインサートに何が入っているかによって分類できます。染色体DNAの断片を挿入したゲノムライブラリー、mRNAからの逆転写によって得たcDNAを挿入したcDNAライブラリー、遺伝子領域(ORF)だけを挿入したORFライブラリーなどです。さらに、これらのインサートがランダムに挿入された(中身がはっきりと分かっていない)ライブラリー、インサートがすべて同定されているライブラリー、標的遺伝子(タンパク質)に標識や精製用のタグが付加されたライブラリー、ライブラリーを構成する個別のクローンが独立に維持されているものと、すべてが混ぜられてプールとなっているもの、などにも分類されていきます。

酵母(特に出芽酵母 S.cerevisiae)に限定すると、ライブラリーはほぼすべてプラスミドをベクターとして作られています。それは、S. cerevisiaeに非常に使い勝手の良いプラスミドがあるからです。そして、古くはランダムに挿入されたゲノムDNAやcDNAが用いられてきましたが、ポストゲノムの時代からは同定した遺伝子領域を組み込んだ「中身が分かったライブラリー」が作られるようになってきています。ここでは、特にそれらの「中身がわかったライブラリー」にどのようなものがあるか、その特徴などをまとめてみたいと思います。

1. Yeat Genomic Tiling Collection(同定されたインサートを持つゲノムライブラリー)

古典的に「ゲノムライブラリー」と言うのは、通常ゲノムを物理的あるいは生化学的にある程度の大きさに分断し、それをプラスミドにランダムに組み込んで作られてきました。さらにこのランダムなインサートを持つライブラリーは通常、全て混ぜられたプールとして維持されています。このプールを一度に酵母に形質転換してやることで、形質転換体のそれぞれのコロニーはライブラリーの中から異なった1つのクローンを持つことになり、それぞれのコロニーを目的に応じてアッセイすることで目的の遺伝子を単離する。これが、ゲノムライブラリーを用いた実験の通常の流れです。

遺伝子領域を含むように適度な長さを持ったインサートが、全ゲノム領域をカバーするように含まれているライブラリーは、「良いライブラリー」ということができます。ランダムなライブラリーでは、どれくらいのクローンを調べたらゲノム全域を調べたことになるのか、理論的には算出できます。しかし、もともとのライブラリーの良し悪しによっては、いくら探索しても目的の遺伝子が得られなかったり、ちゃんとゲノム全域をカバーできなかったりすることがあります。

こうやってランダムに作ったゲノムライブラリーのインサートの配列を一つずつ決定し、それぞれがゲノム領域のどこにあるかを決定し、その情報をもとに各クローンをある程度のオーバーラップを持たせてゲノムの全領域をカバーするように並べた(tilingした)のが、このライブラリーです。はじめはマルチコピープラスミドのライブラリーが作られました(文献1 過剰発現のスクリーニングに用いることができます)。さらに同じチームから、シングルコピーのライブラリーも作られました(文献2)。

これらはゲノム上の98.5%をカバーする1,750程度のプラスミドからなるライブラリーで、このライブラリーを使えば比較的少ない数を探索することでゲノム上のすべての遺伝子を調べることができます。このライブラリーでは、挿入された遺伝子(タンパク質)は、ゲノム上と同じプロモーターから発現され、標識・精製用のタグはついていません。多コピーライブラリーは、Yeast Genomic Tiling CollectionとしてDharmaconから販売されています

 

2018.2.15 追記

このようなTiling Collection作成の試みは、実はゲノムシーケンスが完了する前からなされています。そこでは、ランダムに組み込んだゲノムDNA断片の制限酵素の切断パターンを利用して順番をならべるという方法が使われています。これらのクローン(ライブラリー)は、Ordered Cloneと呼ばれていました。実は出芽酵母のOrdered Cloneの一部は、私が大学院時代に所属していた研究室で作られていたのです(例として文献3)。

当時、λファージをベクターとして作成されていました。λファージベクターには大きなDNA断片が挿入できるというメリットがあるものの、酵母での機能解析に使おうとすると一手間必要になってしまいます。これがこのライブラリーが現在まで残らなかった理由かもしれません。

 

文献

  1. A systematic library for comprehensive overexpression screens in Saccharomyces cerevisiae. Jones GM, Stalker J, Humphray S, West A, Cox T, Rogers J, Dunham I, Prelich G. Nat Methods. 2008 Mar;5(3):239-41. doi: 10.1038/nmeth.1181. Epub 2008 Feb 3. PMID:18246075
  2. A systematic CEN library of the Saccharomyces cerevisiae genome. Hvorecny KL, Prelich G. Yeast. 2010 Oct;27(10):861-5. doi: 10.1002/yea.1783. PMID:20641023
  3. An ordered clone bank for chromosome I of Saccharomyces cerevisiae. Tanaka S, Yoshikawa A, Isono K. J Bacteriol. 1992 Sep;174(18):5985-7. PMID:1522073

その2に続く

 

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