ナノポアシーケンサーMinIONインプレッション

Nanoporeシーケンサーは、DNAを一分子ずつ小さな穴(nanopore)を通し、AGCTの塩基が通る際の電流変化の違いを利用してDNAの塩基配列を解読しようとする、次次世代(?)のシーケンサーです。DNAを断片化して大規模並列に解読する、いわゆる「次世代シーケンサー」に比べると、配列解読の方法はとても直感的でわかりやすい。いよいよDNAを一本ずつ読む夢に見た時代が到来した、という感じでしょうか。

さらには、Nanoporeシーケンサーの中でも現在最も小さなMinIONは、USBでPCにつながる「お手元シーケンサー」であるという驚くべき特徴もあります。初めにその話を聞いたことがある人は、「そんなデバイスで本当にシーケンスができるのか?」と疑ったことだと思います(私は疑いました)。それが、3年くらい前から実際に研究者によって使われるようになり、現在では(多分)それなりに多くの人が使っているはずです。

私も、Nanoporeシーケンサー使う新しい実験を行うことにしました。実際に使ってデータが出てくるまでにはそれなりに紆余曲折があったので、このエントリーではそのあたりをレポートしてみようと思います。なお、現在のところ実験データがバンバンでているわけではなく、まだ試行錯誤をしている状態です。

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まず、「このシーケンサーどうやって買うの?」ってことなのですが、とりあえずいつも出入りされている業者さんに、デモを頼めないか聞いてもらうことにしました。答えは、「日本に営業所はない(*追記あり)。デモもやっていない。サービス(?)の人が一人いるが、忙しくてほとんど捕まらない。」というもの。購入のやりかたは、ウェブからオーダーすると直接海外から送られてくる。支払いはこの業者さんがやってくれるということでした。

業者さんが、大学内ですでに購入された先生がいらっしゃること教えてくれたので、その先生に会って色々と話を聞きました。そこでわかったことは、ただキットを買っただけではシーケンスはできないこと(他に試薬がいくつか必要)、解析用のパソコンもそれなりスペックが必要なこと、などでした(パソコンのスペックは、MinionCompatibilityというソフトでチェックします)。Nanoporeのページを注意深く読めば書いてあることではあるのですが、聞いておかないと間違いなく見落としてしまうところでした。

私は、まずはおためしでMinION本体とフローセルが2セット、ライブラリ作成試薬がついたStarter PackのBasicを購入することにしました。直接購入なので為替相場の影響をすぐに受けるのですが、大体16万円程度。これにその他の試薬数万円、さらにMacProに1TBのSSDを導入して10万円程度。夢の次次世代シーケンサーがこの価格で導入できるのは、やはり安いと言っていいでしょう。

ウェブでポチって(ポチると言うほど楽ではなかったけど)、2週間ほど待つとキットが送られてきました。

送られてきたスターターキット

さて、開封の儀です。

MinION本体はスマホを小さくしたようなサイズ感。パッケージもとてもおしゃれで、開封のワクワク感は実際スマホに近い。

MinION開封。iPhoneを彷彿とさせるオシャレなパッケージ。

実際にはMinION本体をパカっと開いて、フローセルを装着して使います。フローセルは消耗品で一回10万くらいとのことなのですが、どうもキットで洗浄すれば何度か使えるみたいです(私も実際何度か使えています)。

フローセルが装着され、配列解読準備万端のMinION

で、実際にシーケンスをするわけですが、送られてきたキットには説明書はついていません。全部 Nanoporeのウェブサイトから見つけてきてダウンロードします。実行するソフトウェアとかも。一端Nanoporeシーケンサーを購入するとCommunityサイトへのアクセスが可能になるので、わからないことはそこでのディスカッションを一生懸命検索する、さらにはそこで質問する、などの努力が必要となります。このCommuityベースなやり方は斬新ですが結構大変。私は初め、読まれた配列データがどのフォルダに保存されているのかわからず、探し出すのに一苦労しました。

実際のシーケンシング解析に移る前に、当然ですが読むDNAのライブラリー調整をします。今回は、「酵母からゲノムDNAを抽出して、断片化せずそのままライブラリーを調整して、読む」ということをやりました(これは狙ってやったわけではなく、「結果としてそうなった」というのが実情です)。ウェブページからダウンロードしたマニュアルに従って試薬を使ってライブラリー調整します。初めて読むと結構わかりにくいマニュアルでした。

なんとかライブラリー調整を終え、いよいよシーケンサーにアプライ。SpotONという小さな穴からサンプルをフローセルに流し込みます。このあたりの操作は、YouTubeにあがっている動画を見ながら勉強します。サンプルアプライして、MiKNOWというソフトを立ち上げて、解析を実行すると数分後にはリードが始まります。

MinKNOWの様子。これは何度か使った古いフローセルのQCを行っているところ。多くのポアは使えなくなっている(黒やオレンジのポア。

読み始めると、どんどんリードが溜まっていきます。長いリードも数秒で読んでしまう感じ。それをすぐに解析することができます。出てきた配列の解析は、次世代シーケンサー解析のワークフローとほぼ同じ。今回は最終的に丸一日かけて30万リードほど読んだデータを解析しました。

結果の一部をIGVで視覚化したのが以下になります。上側3分の1程がMinIONによるリード、下側が比較のためのIllumina HiSeq1500でのリード(50bp片側)です。

NanoporeとIllumina両シーケンサーによるリードの比較(IGVで視覚化)

今回は、サンプルのDNAを断片化していません。読まれたものは自然に切れてしまった酵母の染色体DNAということになります。ですので長さはまちまちですが、長いものは10kbほどあります。ゲノム全体をカバーできるほど読めていますが、解読の精度は低く、これだけから未知のゲノムの配列を決定したり、変異部位を同定したりするのは難しそうです。大きな欠失などはこれで解析できると思います。一方、Illuminaのリードはそれぞれは短いですが解読の精度が高いですね。

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というわけで、お手元シーケンサー体験記でした。実際に私がやりたいことをこのシーケンサーで実現するためには、まだ試行錯誤が必要そうでしたが、私としては、調整したサンプルをすぐにテストしてその中身を確かめられる、このスピード感はとても魅力的に感じました。少し読ませてみて、期待通りの結果が出ていなかったらシーケンサーをとめて、フローセルを洗った後に次のサンプルを解析してみる、なんてこともできました。

ちょっと購入が面倒(届くまでにタイムラグがある)、やっぱりそれなりにコストがかかる、配列解読の精度が低い、というところはまだ問題ですが、そのへんは次第に解消していくのでしょう。何が良いって、「さらに次の世代のシーケンサー」なるものが出たとしても、無用の長物にならないこと。最新の研究機器は、導入コストが膨大なくせに大抵寿命が短い。新世代の機器がでたらサヨウナラです(でもそう簡単に捨てられない)。そして古くて使い勝手が悪くなった機器は放置され場所を専有していく。この小さなシーケンサーにはそういう心配が一切ない。

今後、1人に1台お手元シーケンサーの時代が来るのでしょう。その頃には、カラーバリエーションが出たり、MinIONをデコったりするようになるかもしれません。所有欲もくすぐる可愛いヤツ、それがMinIONです。

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2018.2.20追記

Nanoporeのアナウンスによると、どうもTakaraが日本での認証サービスプロバイダーになったようです。これで随分と買いやすくなると思われます(マージン分価格が上がる可能性もありますが)。

 

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