「システムバイオロジー」という研究志向

「システムバイオロジー」という研究志向について問い合わせがあったので、自分なりの考えをまとめてみました。

「システムバイオロジー」とひとくくりに言っても、研究志向に共通性があるだけで、その研究者が対象としている生命現象によって専門性は大きく別れます。これは生物学の広がりと同じくらい広いと思って頂ければと思います。「酵母で細胞レベルの研究をしている研究者」と「動物の個体レベルの研究をしている研究者」は同じシステムバイオロジーの研究者でも知識は大きく違うと思います。その上で、(数理モデリングをふくめた)システムバイオロジーという研究志向のもつ一般的な特徴について述べさせていただきます。

まず、数理モデルを作るためには、対象とする生命現象の、どの階層の持つどんな性質をモデル化するか、というイメージが作れないといけません。細胞レベルなのか個体レベルなのか、細胞内だとして信号伝達経路まできちんと記述するのか、あるいは細胞の応答のみを記述するのか。それに対して研究者が持っている「なんとなくこういう動作原理で動いているんじゃないか」というイメージを数理的に具現化するのが数理モデリングです

なので、研究者は対象の生命現象について相当詳しくないといけません。また、これは当然ながら、モデル化する対象が今どこまで分かっているかにも依存します。まったくのブラックボックスをモデル化するとなると、内部構造を無視した、インプットーアウトプット関係のみのシンプルなモデルになるでしょう。実際には、それで知りたい現象がうまく再現でき、その系の振る舞いが求めている予測を出すので、あればそれでもいいのです。ただ、生物の場合には通常「作用点」が知りたいので、内部構造ー分子機構がわからないと実用的にはあまり意味をなさない事が多いです。

そういうイメージがあった上で、それをどんな数学を使って記述するかというステップに移っていきます。これも対象の持つ振る舞いをどうモデル化したいかによって変わってきます。細胞内の生化学反応を記述したいのか、細胞どうしの三次元的な相互作用を記述したいのか、などなどです。物理的な構造や動き、拡散を考慮しないのであれば、常微分方程式でかけるモデルが細胞内の生化学反応を記述するのによく使われます。

それで、話を上の方に戻すのですが、そのためにまずはそのメカニズムについて、研究者がどこまで理解しているのかを描き出す、マッピングするということをやります。実は、このマッピングという作業から系の振る舞いが直感的に予測できることも多くあります。そしてその後、どこをどう数式化していくかという順序で進んでいきます。また、こういう作業をしていると、既に別の研究者が数理モデル作っていることを発見することもあります。そういう場合には、そのモデルがどう作られているかを解読することでモデリングの方法を学ぶこと、自分の方法と比較することもできます(細胞周期の数理モデルの例については、以前このブログで書きました)。

ただし大抵の場合、対象としている現象について数理モデルを作ったとしても、魔法の箱のように答えを出してくれるものー実用に耐える予測を勝手にしてくれるものーにはならないでしょう。「生物に近い振る舞いをする、内部メカニズムも一応再現しているモデル」はできると思います(これをToy modelと呼んだりします)。ですが、これを使った予測となるとほとんど役に立たないと思います

むしろ、「そうやって数理モデルを作ろうとする過程、完成に至るまでに、その現象についてシステムレベルでの理解を研究者が深め、新しい研究方法のヒントを得る」、というのが現在のシステムバイオロジーのスキームだと思っています。

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