システム細胞学

〜「ロバストネス」から新しい細胞の姿が見える〜

 

細胞の生命活動は、数千から数万の遺伝子の働きにより成し遂げられる。ほとんどの遺伝子は、細胞内でさまざまな機能を発揮するタンパク質の情報をコードしている。遺伝子がコードしている情報は、タンパク質の配列だけではない。そのタンパク質を、いつ、どれだけ作るのかという情報が含まれてこそ、細胞は正常に機能できる。それぞれのタンパク質の必要量は、10000倍以上もちがうのだ。

プロテオマップにより可視化した酵母のゲノムとプロテオーム。それぞれのタンパク質の発現量は1000倍以上も異なる。

プロテオマップにより可視化した酵母のゲノムとプロテオーム。それぞれのタンパク質の発現量は1000倍以上も異なる。


この「量」は、どれほど厳密でなければならないのだろうか?

私たちは、「タンパク質の発現量をどこまで増やしたら細胞の機能が破たんするのか?」を調べている。そのために、遺伝子つなひき法という新しい実験手法を開発した。もっともシンプルな細胞のモデルである、酵母を研究対象としてもちいている。パンやビールを作るのに使われるアレだ。遺伝子つなひき法では、細胞内でそれぞれの遺伝子の複製(コピー)をどんどん増やし、細胞が死ぬ直前の「限界コピー数」を測ることができる。遺伝子がコードするタンパク質は、その遺伝子のコピー数が増えた分だけよりたくさん作られる。

私たちは、5年間をかけて酵母がもつ6000の遺伝子すべての限界コピー数を測った*。驚いたことに、その80%以上の遺伝子をそれぞれ100コピー以上にあげても、細胞の機能は破たんしなかった。細胞が、実に高いロバストネス(頑健性)をもっていることがあらわになった瞬間だった。一方、わずかにコピー数が増えただけで細胞の機能が破たんする遺伝子も100ほど見つけた。これらの遺伝子はどうしてわずかに余剰にあるだけで、細胞に悪影響をおよぼすのだろうか?それが、今、私たちが追求していることだ。

酵母内でわずかに過剰にしただけで増殖を阻害する遺伝子(DSG)が作るネットワーク

酵母内でわずかに過剰にしただけで増殖を阻害する遺伝子(DSG)が作るネットワーク


遺伝子の数の限界が、私たちの生活に何の関係があるのか。ダウン症候群やがんなど、余剰の遺伝子がうみだす病態がある。「量」の異常が引き起こす疾患を理解するためには、ロバストネスの視点から細胞の姿をとらえる必要がある。私たちのアプローチから、今、新しい細胞の姿が見えてきつつある。

*Makanae et al., Genome Research 23(2):300-311.

本研究室は、酵母とシステムバイオロジーをキーワードとして、細胞システムの設計原理(ロバストネス)について研究しています。本ページでは、研究室のメンバー研究テーマ研究室の備品などを紹介しています。本研究室での研究に興味がある方は、酵母を使った研究やシステムバイオロジーに興味がある方、気軽にご連絡ください

 



出芽酵母の増殖を顕微鏡で撮影した動画です。「遺伝子つなひき法」によって、あるタンパク質を過剰に作らせています。中央の細胞は、そのタンパク質がたくさん作られすぎて細胞周期がおかしくなり、異常な増殖をして最後は死んでしまいます。音は実際には聞こえません(後で人工的につけました)。

 

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研究室ニュース

2016.9.14 当研究室の江口優一がICY14のThe CARL SINGER FOUNDATION Sessionの口頭発表で二位になりました。

江口が受賞

江口が受賞



2016.8.22 タンパク質の局在化プロセスへの過負荷が引き起こす細胞増殖遅延について調べた論文が、Scientific Reports 誌に掲載されました。プレスリリースの内容はこちらです。科学新聞に取り上げられました(平成28年11月4日号)。

2016.7.26 2015年度に守屋と佐藤伸先生が担当した教養講義「生命の基本原理と生活の中の生物学」が、平成27年度岡山大学ティーチング・アワード表彰「先進教育賞アクティブラーニング分野」及び「優秀教育賞大規模授業部門」に選ばれました。

賞状と目録

賞状と目録



受賞を喜ぶ佐藤先生と守屋

受賞を喜ぶ佐藤先生と守屋



2016.7.26 守屋が「化学と生物」誌に、解説記事「細胞のタンパク質発現のリソース配分とキャパシティ」を書きました
化学と生物

2016.6.6~ 守屋がトロントで在外研究を行います(9月まで)。

2016.4 当研究室の石川浩史が日本学術振興会特別研究員(DC2)に採択されました。

2016.1 科研費・国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)に採択されました。

2015.11.14 第33回YEAST WORKSHOPを主催しました。当研究室の江口優一がポスター賞を受賞しました。

2015.11 過剰発現実験の定量的側面について書いたperspectiveがMBoC誌に掲載されました

2015.6 Lucileさんの歓迎会を行いました。

キリンビール工場にて

キリンビール工場にて



2015.5.7 異数体の増殖遅延は少数の量感受性遺伝子のコピー数の変化によるものではないことを示した論文が Genes & Development 誌に発表されました。この研究は、MIT の Angelika Amon教授グループとの共同研究の成果です。

2015.3.31 わずかなコピー数上昇で細胞増殖を阻害する新奇の小さな遺伝子(OTO1: Orphan toxic when overexpressed)の論文がPLOS ONEに発表になりました

 

2012.12.28 「出芽酵母のもつすべての遺伝子の限界コピー数を測定した」論文が、Genome Research誌に掲載されました
2011.12.7 「分裂酵母の細胞周期のロバストネスを測り、そのロバストネスを再現する数理モデルを開発した」論文がMolecular Systems Biology誌に掲載されました
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