ずっと繰り返してきた実験

私は、プラスミドと呼ばれる環状の小さなDNAを構築し、それを酵母細胞に入れ酵母がどうなるかを観察することを、ずっと繰り返してきた。

観察の仕方はいろいろだ。酵母の増殖速度をみたり、酵母の形態がどう変わるかを顕微鏡で見たり、酵母の中で働いているタンパク質の量や性質がどう変わるかを見たり、酵母の中で働いているタンパク質の存在場所がどう変わるかを見てみたり。

でも結局は、「プラスミドを構築し、酵母に入れ、酵母を観察する」というサイクルには変わりがない。

プラスミドを構築するときには「設計図」を作る。自分達の仮説を証明できるように、様々な「部品(DNAの配列)」を組み合わせたり変異を入れたプラスミドを設計し、そのとおりに作る。

プラスミドの作成の過程にはプラモデルを作っているような楽しみがある。昔は何段階もかけて目的のプラスミドを構築していたが、今はどんなプラスミドでもほぼ一発で構築できる技術が存在する。

それを酵母に入れる。2日後、うまく行けば寒天培地の上に酵母が生えてきてコロニー(細胞の集団)を形成する。

研究室に来たらカバンを背負ったまま培養器を開けてコロニーが出ているかを観察する。一刻も早く自分の実験が成功したかを知りたいからだ。コロニーが生えているかをもっと早く知りたいときには、実体顕微鏡で拡大してコロニーを見てやる。これなら1日目にうまくいっているかがだいたい分かる。

これは植物の種をまいて双葉が生えてくるのを観察するような喜びなのかもしれない。細胞が増える・コロニーが生えるという現象は、人にとって見ているだけで楽しいことなのかもしれない。

2日たってもコロニーが生えてきていなさそうなら、実験が失敗している可能性がある。すかさずもういちど酵母にプラスミドを入れる実験を繰り返す。でも生えていない培地は捨てない。実験台の上に放置する。すると何日かたってからコロニーが出てきたりして、それが新たな発見につながることもある。

コロニーが生えてきたらじっくりと見る。大きさは均一か、いびつな形をしていないか。これらが重要な情報を持っていることもある。

生えてきたコロニーを拾い上げる。ねっとりとした酵母細胞のかたまりを次の培地に移す。自分が作り上げた作品(プラスミド)を細胞内に持つ酵母、自分の仮説を証明してくれるかもしれない酵母。なんだか愛おしい。

そして酵母をいろいろな方法で観察し、その結果をもとに、また次のプラスミドを設計する。

たいていの場合、思ったような結果は出ない。自然はそんなに甘くない。簡単に真実を見せてはくれない。だからいろんな仮説を作っていろんな可能性を考えて、たくさんのプラスミドを作って酵母に入れる。

思ったような結果が出ないとしょんぼりするが、あらたに仮説を考えそれがうまく証明された時のことを考えると、全身が湧き立つようなワクワク感がある。だからとにかく実験を繰り返す。

プラスミドを設計し、構築し、酵母に入れ、酵母のコロニーが生えてくるのをまつ。私はこれをずっとずっと繰り返してきた。