遺伝子つなひき法

遺伝子つなひき法は、英語ではgenetic Tug-Of-Warといっており、略してgTOWと呼んでいます。gTOWでは、遺伝学的手法を用いて「遺伝子発現をどこまであげたら細胞は死ぬのか?」を測定することを目的としています。この実験から「遺伝子の過剰発現に対する細胞システムのロバストネス」に関わる知識を得ることを目的としています*1。gTOW法は守屋が現在中心的な実験手法としてもちいており、出芽酵母*2、分裂酵母*3で動いている実験系です。

日本語の解説は以下を参照してください。


英語での専門的な解説は以下の論文を参照してください。


 

実験の手順を簡単に説明します。

  1. pTOWというプラスミド*4に標的遺伝子をクローンし、
  2. その細胞内でのコピー数を上限(細胞が死ぬ直前)まで上げ、
  3. その数を測る。

この中で2番がこの実験系の特徴ですが、それについては以下の図をもとに説明します。

 
gTOW-1.png
 

限界を知りたい標的の遺伝子をクローンしたプラスミド(pTOW-target)を細胞に形質転換します。プラスミドの形質転換体の選別(1次選択)には、ウラシルのない培地を用います*5

  • このプラスミドの第1の特徴は細胞の中でマルチコピーになり、さらに細胞集団中でのそれぞれの細胞の持つプラスミドコピー数が分散するということです。従って細胞内のプラスミドコピー数は1-40コピーとなります。

次にこの細胞集団をロイシンのない培地に移してやります(コピー数増加選択、以降「2次選択」と呼びます)。するとこのこのプラスミドのコピー数は100コピー以上になります。

  • 正確に言うとプラスミド上のleu2d遺伝子の活性が非常に低いために、プラスミドをより多く持った細胞がより多くのロイシン(栄養)を合成できるために、早く増幅し培地中に優先的にたまってきます(この説明図も参考にしてください)。これがこのプラスミドの第2の特徴です。

この状態では当然標的の遺伝子のコピー数も上昇し、それにともなって標的遺伝子が過剰に発現します*6

もしここで目的遺伝子の機能を知りたいのであれば、「細胞がどうなるか」を観察することになります。例えば出学酵母のいくつかの遺伝子を遺伝子つなひき用のプラスミドにクローンして、寒天培地での増殖を見たもの(上)とその時の細胞の形態(下)を表しています。これらは細胞周期に関連する遺伝子なので細胞周期の異常により細胞の形態が異常になっています*7

 
Sc-gTOWCells.jpg
 

しかしここでの目的は「遺伝子コピー数をどこまであげられるか?」*8です。

それはどうやって決められるのでしょうか?

実はこの2次選択の段階でおきている現象(遺伝子つなひき)によって、2次選択後の細胞集団の持っているプラスミドのコピー数は、標的遺伝子の上限に近い値に収束しているのです。

 
gTOW.png
 

上図はその概念図です。

  1. leu2dのコピー数が高いほど細胞の増殖は早い、つまりleu2dはプラスミドのコピー数を上昇させる遺伝的選択圧として働きます。簡単に言うと「leu2dがプラスミドのコピー数を引っ張り上げようとする」わけです。
  2. 一方で、同じプラスミドDNA上の標的の遺伝子に上限がある(あるコピー数を越えると細胞が死ぬ)とすると、プラスミドのコピー数はその上限よりも低くとどまろうとします(コピー数を下げる遺伝的選択圧です)。これも簡単に言うと「標的遺伝子がプラスミドのコピー数を引っ張り下げようとする」わけです。
  3. これら2つの引っ張り合いがうまく釣り合ったところのコピー数を持つ細胞がもっとも増殖が早いために、培地中にたまってくるというわけです。そのようなわけでこの手法を「遺伝子つなひき法」と呼んでいるわけです。

この実験では、マイクロプレートリーダで細胞の増殖速度の測定を行い、細胞内のプラスミドのコピー数をリアルタイムPCRで測定します。

かなりややこしい遺伝学を使っていて、わかりにくいかもしれません。ここでは「こんな実験手続きを使うことで遺伝子発現の上限を決めようとしているのだ」ということがわかっていただければよいと思います。さらに専門的にお知りになりたい方はPLoSgeneticsの論文ををお読みください。

すべての実験手法が完璧ではないように、この実験手法にもいろいろと問題となる点があります。遺伝子つなひき法のFAQのページではそれらについて解説します。

 

 

以下はgTOWの英語での説明

For a given gene, its ORF and promoter regulatory elements are cloned into a 2 micron plasmid carrying a LEU2 gene with a truncated promoter. The plasmid also has a URA3 gene to permit leucine-independent selection. Yeasts are transformed with the plasmid and transformants are selected in media lacking uracil. The dosage sensitivity of a gene is then measured by shifting yeast into media lacking both uracil and leucine. There will be a tendency for cells to acquire more and more copies of the plasmid to compensate for the truncated LEU2 promoter, but the number of copies tolerated by the cell (the "upper limit") is also determined by the sensitivity of yeast to multiple copies of the cloned gene. Hence, there is a "tug of war" in how many copies of the plasmid can be tolerated by yeast.

 

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2017-12-02 (土) 17:09:18

*1 ロバストネスとはなにか?については、別のところで解説しています。
*2 Moriya H, Chino A, Kapuy O, Csikász-Nagy A, Novák B., Overexpression limits of fission yeast cell-cycle regulators in vivo and in silico., Mol Syst Biol. 2011;7:556.
*3 Moriya H, Shimizu-Yoshida Y, Kitano H., In vivo robustness analysis of cell division cycle genes in Saccharomyces cerevisiae., PLoS Genet. 2006 Jul;2(7):e111.
*4 出芽酵母で用いるプラスミドベクターの詳細は出芽酵母のgTOW用プラスミドのページにあります。
*5 ウラシル合成酵素URA3を用いた選択(出芽酵母の場合)
*6 必ずしもそうならない場合もありますが、そうなることを想定してくまれた実験系です。詳しくはFAQに書きます
*7 これがどちらかというと今までの分子遺伝学の実験のやり方でした
*8 細胞は遺伝子コピーがもとの状態=1から何倍まで増えても耐えられるか?