以前、とある大学に講演に行ったときに伺った話。
サルモネラのゲノム上でヒストン様蛋白質H-NSが結合している部分を調べたら、GCコンテンツが他より低い外来性のDNAであり、それらに結合することで遺伝子の発現を押さえているという発見。H-NSを破壊するとこれら押さえられている「毒性の高い」遺伝子が発現するためにサルモネラは死ぬというのだ。2006年7月のサイエンスに掲載されている*1
同様な発見を大腸菌でした日本のグループが一ヶ月遅れでDNA researchに論文を掲載している*2 *3。
いずれにせよ、この発見はバクテリアのゲノムの進化を考える上で大変興味深い。バクテリアのゲノムはその進化スピードから考えて「なるべくスリムに」なるようにデザインされているように思えるからだ。外来遺伝子が入ってしまって、それが邪魔なのならわざわざコストを払ってH-NSで押さえるよりは、それを捨て去ってしまった方が簡単なような気がする。しかし「入ってしまったもの」をうまく捨て去るよりは「とにかく毒なのだから押さえてしまえ」という戦略をとっているということなのだろう。一方で、こういった外来遺伝子はバクテリアにとって単純に「毒」になるばかりではなく、彼らの進化の可能性を広げるものであるため、必ずしも生存に不利になる訳ではない。積極的に遺伝子を取り込むための「一時しのぎ」としてこのような機構をもっているということも考えられる。
バクテリアゲノムに免疫機構が存在するという、私にとってはパラダイムシフトですらある。