リダンダンシー(冗長性)

あるいはカキは飛行機とどこが違うのか?

以下は、生命システムに関して非常に頻繁に見られる誤解である:

あるサブシステムの中でどれくらい機能に冗長性があるかを見れば、そのサブシステムの重要性がわかる

この考え方は非常に擬人化されたもので、エンジニアが良い設計であると見なすものに基づいている。ある事物が破損した場合に、他のものがその機能を維持できるように、致命的なサブシステムは冗長でなければならない。しかし生命システムは設計されていない。進化したのだ。そして人工システムと生命システムは根本的に異なっている。

もし私がエンジニアで新しいタイプの飛行機を作りたいと考えたら、乗客を乗せた状態では一機たりとも失うことは許されない。したがってその飛行機が最悪でも墜落を免れるように、私はすべての致命的なサブシステムを冗長にするだろう。

しかし、もし私がカキであったとしたら状況は全く異なる。もしそうだとしたら、私は子孫に起きるかもしれないばらつきによって生じる負の要因が遺伝することから、私の子孫を守るべきだとどうやったら気づくだろうか?もし、致命的なサブシステムが冗長であったならば、私の子孫は小さな不利益の中を生き延びることが出来るだろう。分子進化の中立説(木村資生)に従えば、これらのばらつきは遺伝的浮動によって集団の中に浸透していくことが出来る。今、もし私の種がシステムの最適化が求められる状況におかれたら、地球上からすべていなくなってしまうだろう。よろしくない。別のシナリオとしては致命的サブシステムの冗長性は最小のままであったら。もし私の子孫のひとつが、これらサブシステムのどれかにちいさなばらつきを持っていたら、それは即座に死ぬだろう。しかし、私は気にしない。私はカキだからだ。私は一千万個の卵を産む。90%の子孫を失ってもかまわないからだ。

実際のところ、細胞のほとんどの致命的なサブシステムは冗長ではない。唯一のRNAポリメラーゼがメッセンジャーRNAを作る。細胞内のエネルギー産生酵素のほとんどのものは単一である。などなど。もしこれらの酵素のどれかに何か問題が生じた場合、とても若い年齢で死んでしまい、種のゲノムの「神聖さを汚す」ことは出来ないのである。冗長性は「二次的な」サブシステムにのみ現れる。信号伝達に関係したものなどである。もちろんこれらのサブシステムは高等な生物では適切な生命活動には重要であるが、生命にとって不可欠ではない。

コメント;リダンダンシーがどれほどロバストネスに寄与しているかは大きな議論の余地のある問題です。これはつまり「死ぬ=ロバストでないのか?」という問題と置き換えても良いと思います。重要なサブシステムが破綻したときに死ぬ(critical=「致死性がある」と訳した)場合、それを避ける必要があるのか無いのか?それはすべての生命をひとくくりにして考えていいものもありません。例えば、自分と同じ遺伝的背景を持った細胞が無数にあり、自分の作り出した細胞が次の瞬間競争相手になってしまうような(適者生存に対する強いバイアスがかかっている環境における)微生物の戦略と、生殖年齢に達するまでに十年以上を必要とし、それを保護する親や社会のコストが大きい人間のような動物の戦略を同じように議論することは出来ないと考えます。

 

表現型がない

ちゃんと機能するためには自動車に何が必要か?
分子生物学者が好きなとても苛つく発言のひとつに以下のようなものがある。 ノックアウトマウスがなんの表現型も示さないのでこの遺伝子は重要ではない 彼らは、essentiality (必須性)という用語まで作ったのだ。

ここで自動車の場合を考えてみる。自動車は何をするものとされているだろうか?平らな地面を自動で進んでいくものだ。そこで、完全に平らな地面を使った実験条件を設定してみる。制御できない要素をのぞくために、この地面を室内に作って、一定の温度と明るさを用意する。もちろん他の乗り物はこの条件からすべて排除する。右側の車は完全な制御を持っていて、左側の車は、ショックアブソーバーとABS、ライト、クラクションがなく、ドアはあるがドライバー側のものはフレームに溶接されており、冷却装置には精製水が入っている。では、それぞれの車のエンジンをスタートさせて、50メートル走行してみよう。何か違いに気づいただろうか?気づかない?つまり、取り除かれたパーツのどれも必須ではなかったということだ。重要ではなかったとすらいえるかもしれない。それでは、その左側の車で、-10℃で地面が凍り付いた夜のロンドンの公道をどれくらい運転できるだろうか?その日、ABSとライトと凍結防止剤がとてつもなく重要であると気づくだろう。必須であるとすらいえる。

私はかつて、表現型のないマウスの変異系統を調べているグループで働いていた。(おかしなアイデアだが)ある人間が歳をとったマウスを使って研究してみて、これらのマウスでは脳が非常に速く退縮していくことに気づくまで。実用的な理由で若いマウスだけを使っていたら、見つけるのは難しかっただろう。

こんなのは当たり前の話です。一昔前の分子生物学者か学生くらいしか言わないとおもいます。無視すればよいだけの話ですが「死ぬから重要」というのはよく言われます。これはNiclasは認めるのでしょうか?

2008-04-05 (土) 00:00:00