出芽酵母のプラスミドベクターについて†
このページでは出芽酵母のプラスミドベクターの研究をまとめています。
コンディショナル・セントロメアを使ったプラスミド†
現在のコンセンサス
出芽酵母のセントロメア配列(CEN)のごく近傍に誘導型の強力なプロモーターを配置する事で、セントロメアを可逆的に不活性化できる。これによりプラスミドの安定性とコピー数をコントロールすることができるようになる。
セントロメアが不活性化された条件(転写を誘導した条件)では、プラスミドの不均等な分配により主に母細胞にプラスミドが蓄積される事で、細胞あたりのコピー数が多コピーになる。これに何らかの選択条件を付加すればプラスミドのコピー数を非常に高く(100以上に)上げる事が可能となる。
一方、セントロメアが活性化された条件(転写を誘導していない条件)では、プラスミドのコピー数は非常に低く保たれる。左記の条件でプラスミドを上げてから数世代たつとプラスミドのコピー数は5-6コピー程度まで下がる。また、これ以上のコピー数のプラスミド(セントロメア)は、(染色体の正常な分配に異常を来すため)細胞の増殖に悪い影響を与える。
関連する論文
- Tschumper G, Carbon J., Copy number control by a yeast centromere., Gene. 1983 Aug;23(2):221-32.
2ミクロンプラスミドにCEN3をのせるとシングルコピープラスミドになる。FLPがあるとCENのDeletionが起きて2ミクロンに戻ることがある。(古いベクター系だからだろう。今のベクターでは問題ないと思われる。)
- Chlebowicz-Sledziewska E, Sledziewski AZ., Construction of multicopy yeast plasmids with regulated centromere function., Gene. 1985;39(1):25-31.
ADH2p-CEN3を使ってグルコース依存的なCENを持つベクターを作成。10コピーないし100コピー(leu2-dを利用)になるベクターを作った。毒性はあまり無いと報告している。
- Futcher B, Carbon J., Toxic effects of excess cloned centromeres., Mol Cell Biol. 1986 Jun;6(6):2213-22.
様々なマーカーを使って5つの異なったCENプラスミドを導入した。平均のプラスミドコピー数は13あたりだったが、これは染色体に不安定性をひきおこし、細胞にとって非常にトキシックなようだ。
明らかにこれらの結果は矛盾している。後者では「理由はわからない」と述べている。
- Hill A, Bloom K., Genetic manipulation of centromere function., Mol Cell Biol. 1987 Jul;7(7):2397-405.
出芽酵母のセントロメアの大御所Kerry Bloom氏らのグループが、pGAL1-CEN3を用いたコンディショナルセントロメアを報告。この実験でもGalのコンディションで60コピー近くまであがったコピー数がGluによるセントロメアの活性化(+選択圧なし)で、5-6コピーまで減少している事を報告している。
- Apostol B, Greer CL., Copy number and stability of yeast 2 mu-based plasmids carrying a transcription-conditional centromere., Gene. 1988 Jul 15;67(1):59-68.
2ミクロンプラスミドにコンディショナルCEN(プロモーター不明)をいれた。CENを不活性化したらプラスミドはマルチコピー化&不安定化した。2ミクロンの機能も完全には残っていない様子。これは、2ミクロンプラスミドのローリングサイクル複製への影響のようだ(現在のベクター系には無関係の話)。
- Wittrup KD, Bailey JE, Ratzkin B, Patel A., Propagation of an amplifiable recombinant plasmid in Saccharomyces cerevisiae: flow cytometry studies and segregated modeling., Biotechnol Bioeng. 1990 Mar 15;35(6):565-77.*1
ARS1オリジン、CUP1p-CEN3によるコンディショナルセントロメア、G418Rによるハイコピーセレクション、lacZとFACSを用いたポピュレーション解析、そして数理モデル化。G418Rで25コピー程度にあがったプラスミドコピー数は、条件を戻しセントロメアを活性化させても、だんだんと減っていて6コピー程度になり、最後は2コピー程度になってしまうという報告。
- Resnick MA, Westmoreland J, Bloom K., Heterogeneity and maintenance of centromere plasmid copy number in Saccharomyces cerevisiae., Chromosoma. 1990 Aug;99(4):281-8.
GAL1p-CENによるコンディショナルCEN。ARS1オリジン。CUP1による多コピー選択。5-10コピーのセントロメアプラスミドが安定に保持されると述べている。
プラスミドのコピー数を上げる手法†
- Erhart E, Hollenberg CP., The presence of a defective LEU2 gene on 2 mu DNA recombinant plasmids of Saccharomyces cerevisiae is responsible for curing and high copy number., J Bacteriol. 1983 Nov;156(2):625-35.
leu2-dによってコピー数が非常に高くなる事を述べた論文
- Tschumper G, Carbon J., Saccharomyces cerevisiae mutants that tolerate centromere plasmids at high copy number., Proc Natl Acad Sci U S A. 1987 Oct;84(20):7203-7.
Kan resistant geneでプラスミドコピー数を上げることができる。
- Piper PW, Curran BP., When a glycolytic gene on a yeast 2 mu ORI-STB plasmid is made essential for growth its expression level is a major determinant of plasmid copy number., Curr Genet. 1990 Feb;17(2):119-23.
PGK1遺伝子のプロモーターを削ったものをのせたプラスミドを、pgk1を破壊した株に入れるとプラスミドのコピー数がそれに伴ってあがりますよという、論文。 pgk1-dアリルを作ったというところか。
- Unternährer S, Pridmore D, Hinnen A., A new system for amplifying 2 microns plasmid copy number in Saccharomyces cerevisiae., Mol Microbiol. 1991 Jun;5(6):1539-48.
CDC9を使って選択なしでプラスミドを多コピーにして安定化させることができるという論文。
その他†
- Spalding A, Tuite MF., Host-plasmid interactions in Saccharomyces cerevisiae: effect of host ploidy on plasmid stability and copy number., J Gen Microbiol. 1989 Apr;135(4):1037-45.
2ミクロンプラスミド(とそのベクター)のコピー数が、ホスト細胞の倍数性に影響を受けると言っている。倍異数性があがるにつれてコピー数もあがるのだとか。
2017-11-11 (土) 16:21:44