なぜGap-Repair Cloningをつかうのか?

これは私が先日なにげなく、TOYOBOのバイオニュースを見ていたときの事です。そこには、以下のような記述がありました。


A子さんへの課題

  • 平滑末端を有するPCR増幅断片の平滑末端クローニング方法の手順をまとめなさい。
  • その手法を用いて、human β-Actin cDNAのC末端欠損変異体を作製しなさい。
    • Accession No.X00351のcDNAクローンを準備するので、そのプラスミドをPCRの鋳型とすること。
    • 開始コドンの位置にNdeIのサイトを導入すること。
    • 732番目のGCTをTGA(ストップコドン)に変更し、なるべくすぐ後ろにXbaIサイトを導入すること。
    • 作製したクローンを大腸菌DH5αに形質転換した後に、NdeIとXbaIで切り出して、発現ベクターに組換えること。

N代さんへの課題

  • 平滑末端を有するPCR増幅断片をTAクローニングする手順をまとめなさい。
  • その手法を用いて、human G3PDH cDNAのC末端欠損変異体を作製しなさい。
    • Accession No.M17851のcDNAクローンを準備するので、そのプラスミドをPCRの鋳型とすること。
    • 開始コドンの位置にNcoIサイトを導入すること。
    • 796番目のTATをTGA(ストップコドン)に変更し、なるべくすぐ後ろにXbaIサイトを導入すること。
    • 作製したクローンを大腸菌DH5αに形質転換した後に、NcoIとXbaIで切り出して、発現ベクターに組換えること。

 

この「課題」をクリアーするために主人公2人はいろいろな「技術的問題」に巻き込まれながらクローニングを進めていきます。その過程でぶつかる「技術的問題」の解決法一つ一つがクローニングを成功させるための重要なTIPSであり、分分子生物学者が身につけておかなければならない「技能」という事になります。
しかし、ちょっと待ってください。この課題の本当の目的は何でしょうか?
それは「cDNAにコードされている遺伝子のC末端欠損変異体を発現ベクターに組み込む」ということ”だけ”です。そのためにやれ平滑末端クローニング(ベクターの脱リン酸化、プライマーのリン酸化)だの、TAクローニングだの、末端にある制限酵素の切れ方の違いや、メチル化により切断されなくなる酵素などなどの知識を身につけなければなりません。

もし、彼らがGap-Repair Cloningを知っていれば、「プライマーを設計して、PCRをかけて、切断したベクターと一緒に酵母に形質転換し、それを回収する」だけで、ほぼ何のトラブルもなく発現コンストラクトを完成させるでしょう。

「遺伝子クローニング」の目的は、遺伝子をプラスミドベクターに組み込む事ではなくて、出来上がったプラスミドコンストラクトで行う生物学実験であるはずです。もうこういう「必要の無い技能」をいたずらに身に付けようとするのはやめて、Gap-Repair Cloningという一つの革新的な技術を使いませんか?

ちなみに、Gap-Repair Cloningがいくら波及しても私には何の利益にもなりません。ただこの非常に利用価値の高い実験手法があまりにも認知されていないというこの現実を憂いて、このような文章を書いているのです。興味がある方は、ぜひ、Gap-Repair cloningを使おう!をご一読ください。

 

2009-06-23 (火) 00:00:00