遺伝子つなひき法による出芽酵母の量感受性遺伝子の同定
Makanae K, Kintaka R, Makino T, Kitano H, Moriya H., Identification of dosage-sensitive genes in Saccharomyces cerevisiae using the genetic tug-of-war method., Genome Res. 2013 Feb;23(2):300-11.
この論文は、遺伝子発現のコピー数限界を測定する遺伝子つなひき法を用いて、出芽酵母のもつすべての遺伝子のコピー数限界を測定した仕事です。2006年にこの実験法を報告してから6年あまり。研究を始めてから5年。ようやく発表に漕ぎ着けました。
これまでにも論文作成の苦労話を掲載はしていたのですが、今回も、この論文の研究内容についての詳細や、論文発表に至るまでの苦労話を書いてみたいと思います。どんな事を書こうかといろいろと思案していたのですが、自分たちの首を絞めるような内容も結構あり、だけどそれを書かないで終えてしまうのも何か違う気がする。ということで、ほんとうならば心の奥にしまっておくべきウラ話もできるだけ書こうと思います。
日本語の要約
細胞システムの許容量をこえて遺伝子が過剰に発現すると、細胞システムはその機能に異常をきたす。しかし、多くの遺伝子の発現の許容限界はわかっていない。これまでに私たちは「遺伝子つなひき(gTOW)法」という、ターゲットの遺伝子の限界発現量をそのコピー数として測る手法を開発している。
本研究では、gTOW法をもちいて、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のすべてのタンパク質コーディング遺伝子の限界発現量を測定した。その結果、酵母の細胞システムは、80%以上のそれぞれの遺伝子が100コピー以上になっても破綻しないという「ロバストネス」を持っていることが分かった。さらにフレームシフト解析や分断解析の後、私たちは、わずかなコピー数の上昇で細胞システムを破綻させる(量感受性である)115個の遺伝子を同定した(これらの遺伝子をここでは「量感受性遺伝子:DSG」と呼ぶ)。DSGの多くは、細胞骨格や細胞内輸送に関わっていた。またDSGの多くは、そもそも発現量がたかかったり、タンパク質複合体の構成成分であった。
私たちは、高発現しているORFをGFPにかえ、その限界発現量をgTOW法で測定する事により「タンパク質負荷」が、高発現している遺伝子の量感受性の原因であることを明らかにした。さらに、いくつかの複合体を構成するDSGの量感受性が、その複合体パートナー遺伝子との共強発現により解消されたことから、タンパク質複合体内の「化学量不均衡」が量感受性の原因となっていることも明らかとなった。
この研究で得られた基礎的な知識は、染色体の異常により引き起こされる生理現象や、染色体構成の進化を考える上で役に立つだろう。
この論文の超(長)解説。
書きはじめたらすごく長くなったので章立てにしています。
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