私が「システムバイオロジー」を始めたのには、「私にとってのシステムバイオロジー」に書いたような「科学的・社会的な理由」の他に、2つほど私的な理由があります。
私はそれまで10年近く酵母の研究を続けてきました。酵母のページにも書きますが、酵母は実験生物としてとても魅力的です*1。しかし酵母のような微生物のモデル生物は、そのモデル生物としての価値を失ってしまう危険性を常に持っています*2。大学院を出てからも酵母で研究を続けながら、このまま酵母の研究を続けていくためには、これまでと同じ分子生物学や生化学ではもう酵母にアドバンテージがない、なにか酵母だからこそアドバンテージがあることをやらなければならないと思っていました*3。酵母以外の生物についても「自分の遺伝子・蛋白質」を見つけようとする、金鉱掘り的な分子生物学に少々辟易していたのも事実です。当時2000年頃からは、酵母ではゲノミクスがブレイクしていましたが、
などといった理由からほとんど魅力を感じませんでした。
30年後も私が/酵母で続けられる事をやりたい、そしてそれが「システムバイオロジー」でした。
私は実は2000年頃、ERATO北野共生システムプロジェクトというものがあることを知り、北野氏の本を読んだりして北野氏や冨田氏のやっていること*5に非常に魅力を感じていたのですが、いかんせんシミュレーションについてはずぶの素人で、とても私がそこに飛び込んで何かできるとは思えませんでした。それから4年ほどたってもう一度自分の進路を考え始めた頃に、ひょんな事から今井慎一郎さん*6とお話しする機会に恵まれました。
しかも折しもワシントン大学では今井さんが主催して第3回目のシステムバイオロジー国際会議(ICSB)が開かれようとしていること、北野氏が酵母で実験ラボを立ち上げようとしているところであること、などを聞きました。
実験技術ならばかなりの自信がありました。シミュレーションを学ぶならば日本の方がいいに決まっています。そして、何より憧れの北野氏、そして「システムバイオロジー」の本拠地です。「今こそチャンスだ!」と思いました。
それから北野氏にコンタクトを取り、ICSBで面接をし、幸いにして北野氏のプロジェクトで働かせていただけることになったのです。
なぜ私がシステムバイオロジーに興味を持ったのでしょうか?それは私がコンピュータ(あるいはコンピュータゲーム)が好きだというのは間違いなくあります。近年の生命科学の発展はめざましいものがありますが、コンピュータの「日進月歩さ」には及びません。その「日進月歩さ」をうらやましく傍目に見ながら生命科学をやり続けるよりは、それが融合した学問で飯を食う方が楽しいに決まっています。そういう思いが常にあったのだと思います。そして、システムバイオロジーの考え方に適した、論理的で繊細な実験の出来る酵母という「究極の細胞」を実験材料として長らく使い続けてきたこともそれを加速したと思います。そのあたりが私にとって、裏に隠れた(真実の)「システムバイオロジー」への誘惑だったのでしょう。
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