遺伝子つなひき法は、英語ではgenetic Tug-Of-Warといっており、略してgTOWと呼んでいます。gTOWでは、遺伝学的手法を用いて「遺伝子発現をどこまであげたら細胞は死ぬのか?」を測定することを目的としています。この実験から「遺伝子の過剰発現に対する細胞システムのロバストネス」に関わる知識を得ることを目的としています*1。gTOW法は守屋が現在中心的な実験手法としてもちいており、出芽酵母*2、分裂酵母*3で動いている実験系です。
日本語の解説は以下を参照してください。
英語での専門的な解説は以下の論文を参照してください。
実験の手順を簡単に説明します。
この中で2番がこの実験系の特徴ですが、それについては以下の図をもとに説明します。
限界を知りたい標的の遺伝子をクローンしたプラスミド(pTOW-target)を細胞に形質転換します。プラスミドの形質転換体の選別(1次選択)には、ウラシルのない培地を用います*5。
次にこの細胞集団をロイシンのない培地に移してやります(コピー数増加選択、以降「2次選択」と呼びます)。するとこのこのプラスミドのコピー数は100コピー以上になります。
この状態では当然標的の遺伝子のコピー数も上昇し、それにともなって標的遺伝子が過剰に発現します*6。
もしここで目的遺伝子の機能を知りたいのであれば、「細胞がどうなるか」を観察することになります。例えば出学酵母のいくつかの遺伝子を遺伝子つなひき用のプラスミドにクローンして、寒天培地での増殖を見たもの(上)とその時の細胞の形態(下)を表しています。これらは細胞周期に関連する遺伝子なので細胞周期の異常により細胞の形態が異常になっています*7。
しかしここでの目的は「遺伝子コピー数をどこまであげられるか?」*8です。
それはどうやって決められるのでしょうか?
実はこの2次選択の段階でおきている現象(遺伝子つなひき)によって、2次選択後の細胞集団の持っているプラスミドのコピー数は、標的遺伝子の上限に近い値に収束しているのです。
上図はその概念図です。
この実験では、マイクロプレートリーダで細胞の増殖速度の測定を行い、細胞内のプラスミドのコピー数をリアルタイムPCRで測定します。
かなりややこしい遺伝学を使っていて、わかりにくいかもしれません。ここでは「こんな実験手続きを使うことで遺伝子発現の上限を決めようとしているのだ」ということがわかっていただければよいと思います。さらに専門的にお知りになりたい方はPLoSgeneticsの論文ををお読みください。
すべての実験手法が完璧ではないように、この実験手法にもいろいろと問題となる点があります。遺伝子つなひき法のFAQのページではそれらについて解説します。
以下はgTOWの英語での説明
For a given gene, its ORF and promoter regulatory elements are cloned into a 2 micron plasmid carrying a LEU2 gene with a truncated promoter. The plasmid also has a URA3 gene to permit leucine-independent selection. Yeasts are transformed with the plasmid and transformants are selected in media lacking uracil. The dosage sensitivity of a gene is then measured by shifting yeast into media lacking both uracil and leucine. There will be a tendency for cells to acquire more and more copies of the plasmid to compensate for the truncated LEU2 promoter, but the number of copies tolerated by the cell (the "upper limit") is also determined by the sensitivity of yeast to multiple copies of the cloned gene. Hence, there is a "tug of war" in how many copies of the plasmid can be tolerated by yeast.
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