常微分方程式を用いた数理モデル

これも「酵母のすべて」のために書いたけど使わなかった素材です。ここで出てくる数式やモデルは以下の論文に出てくるものです。

Chen KC, Calzone L, Csikasz-Nagy A, Cross FR, Novak B, Tyson JJ., Integrative analysis of cell cycle control in budding yeast., Mol Biol Cell. 2004 Aug;15(8):3841-62.


 

常微分方程式を用いた数理モデルでは、それぞれの変数(分子の量)の時間あたりの変動(速度)を、その分子を作る反応と失う反応を表した部分の和で表す。例えば、図1のように表されているCln2の合成反応は、微分方程式では図2のように表される。

図1

cln2chen.jpg

式1

cln2math.jpg

Cln2の場合は合成と分解しかない比較的単純な反応であるが、例えばClb2蛋白質は、合成と分解に加え、阻害蛋白質との結合(Clb2を失う反応)、阻害蛋白質複合体からの乖離(Clb2を作る反応)が加わる。また、分解反応もCdh1やCdc20によって触媒されるし、それらに対するClb2のフィードバックも加わり複雑な式になっている(図2)。

式2

clb2math.jpg

実際にモデルを作るときは、一つ一つの蛋白質についてこのような方程式を作る事になる。このような作業は手作業で行うと大変な労力を伴うし間違えやすいので、モデル作成を支援するソフトが開発されている。図2、3はそのようなソフトウェアの一つであるCellDesigner3.1を用いて式1と式2の反応を記述したものである。これはProcess diagramと呼ばれる。CellDesigner3.1ではこのダイアグラムそれぞれに反応式とパラメータを割り当ててやることで連立微分方程式のモデルをシミュレーションすることも可能になっている。

図2

cln2kitano.jpg

図3

clb2.jpg

分子の変動を表す微分方程式には、その反応の性質を表すような式が選ばれる。Cln2の分解には質量作用の式(mass action equation)が使われている。酵素反応にはミカエリスーメンテンの式が使われることもある。また、各反応にはそれぞれの反応の早さ(あるいは強さ)を表す反応速度定数(パラメータ)が必要となる。一般に細胞内での反応の反応速度を正確に測るのは大変難しいのでこれらの反応式や定数の決定は数理モデル化における大きな課題であるといえる。

図4は実際にこのモデルをMatlabというソフトウェアで動かしたものである。

図4

chensim.jpg

このモデルでは39の変数があるがそのうち、細胞の質量とCln2、活性型のClb2の変動を示している。いったんこのようなモデルが構築されば、実験的な根拠に対して十分な確証が得られればモデルを用いて細胞周期の原理についての理解を深めることが可能になる。例えば、Chenらは細胞周期が後戻りしない為の機構としてCdh1,Sic1とB-typeCDKが互いに拮抗して2つの安定なフェイズ(G1期とG2/S/M期)を作ること、それらが2つのフェイズが細胞質量によって活性化されるCln-CDKと時間遅れによって活性化されチェックポイントによって不活性化されているCdc20-APCによって変換されると言う原理を議論している。このような2つの安定したフェイズが互いにシフトすることで安定な周期を生み出している事は最近アフリカツメガエルの卵細胞でも確かめられている。このような原理は分岐解析(図6)という方法でより詳しく調べることができる。

図5

bifurcation.jpg
 

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2013-06-10 (月) 20:12:30