すべての生き物の生命活動は、信号を検出してそれに適した応答を生みだすための、蛋白質の相互作用ネットワークに決定的に依存しています。例えば、走化性、熱ショック応答、胞子形成、ホルモン分泌、細胞周期のチェックポイントなどです。模式図と決まったしきたりのない手振りの議論は これらの制御システムがどうやって機能するのかを合理的に説明するのに用いられますが、そのような「漫画(cartoon)」には、複雑な制御ネットワークを定量的で確実に理解するのに十分な正確性がありません。細胞の制御システムをここに記述したような解析に用いることが出来るようにプログラムし直すには、配線図とそこにある数式を、より正確に工学的なスタイルで表現する必要があります。
蛋白質ネットワークの数理モデリングとコンピュータシミュレーションは、作用機序の仮説を明確に説明したり、生理的な意味合いを信用性のあるかたちで引き出すための道具となります。この解説では、いくつかの簡単な信号-応答要素を、どのように(非線形微分方程式を用いて)数学的に表現するかを紹介し、フィードバックやフィードフォーワード信号がどうやっていろいろな形の応答を作るのかを紹介しました。S字スイッチ(ブザー)、一過的応答(検知器)、ヒステリシススイッチ(切り替え器)、そして振動子(点滅灯)などがそれです。これらの構成要素から、自然は非常に複雑な制御ネットワークを作ってきました。これらの個別の構成要素を数学的表現によって正確に表すことによって、これらのネットワークのコンピュータモデルを作ることが出来ます。そして数値シミュレーションによって個別の入力に対するネットワークの出力を計算することが出来るのです。
生物学者と応用数学者の重要な接点は、実験家が信号-応答曲線と呼び、理論家が1パラメータ分岐解析図と呼ぶ、制御システムの入出力解析にあります。生物学者の視点から見れば、信号-応答曲線は生物の制御システムの挙動を集約しています。数学者の視点から見れば、1パラメータ分岐解析図は、一連の非線形微分方程式の解の、一般的で定性的な特性を集約しています。分岐の理論はわずか2、3のタイプの信号-応答関係が有ることを気づかせてくれ、それらのほとんどのものはここで示した例に登場します。不可逆的な遷移はサドルノード分岐(Figure1e)に関連しています。振動はホップ分岐(Figure2a-c)と無限周期分岐(Figure3b)で発生します。ネットワークがどんなに複雑であったり、その振る舞いが豊富であっても、信号 -応答曲線は常にこれら3つの分岐とそれ以外の2、3に分解することが出来ます。
科学者のコミュニティにとって、細胞の生命活動のうらにある分子の制御システムを理解して操作する為に必要な理論と実験の巧みな共同作業を発展させるためには、まずお互いに意思疎通することが大事です。理論家は遺伝子や蛋白質、代謝物質に関する語彙と直感を発達させる必要があるし、実験家は微分方程式やリミットサイクル、分岐といった用語になれなければなりません。この解説がたくさんの新しくて実りある対話の手助けになることを期待します。