ここまでに記述してきた信号-応答要素(ブザー、検知器、切り替え器、そして点滅灯など)は、より複雑なネットワークの構成要素として見うけられます(たとえば、7−12。真核生物の細胞周期の制御ネットワークを例にとって、現実的な配線図のモデリングに含まれるこういった要素について見てみたいと思います。
DNA合成と体細胞分裂をつかさどるCdkネットワークの一般的な配線図をFigure3aに示しました。このネットワークはCdk1-サイクリン Bヘテロ二量体の活性を制御する蛋白質が関与していますが、細胞周期のG1/S、G2/M、M/G1期の移行をそれぞれ監督する3つのモジュールから構成されています。G1/Sモジュールは、Cdk1-サイクリンBとCKIとの間のトグルスイッチに基づいています。G2/Mモジュールは第2のトグルスイッチで、Cdk1-サイクリンBとCdc25(サイクリンキナーゼを活性化するフォスファターゼ)との間の相互活性化と、Cdk1-サイクリンBとWee1(サイクリンキナーゼを不活性化するキナーゼ)の間の相互抑制に基づいています。M/G1モジュールは負のフィードバックループに基づく振動子です。Cdk1ーサイクリンBが後期促進複合体(anaphase promoting complex:APC)を活性化、それがCdc20を活性化し、それがサイクリンBを分解します。
細胞の増殖の原動力は細胞の成長です。新しく生まれた細胞は細胞の大きさが特定の大きさ(critical size)になるまでG1期から出てDNA合成/細胞分裂過程(S/G2/M)に入ることが出来ません(54)。したがって、信号ー応答曲線はCdk1-サイクリンBの定常期の活性を細胞の大きさの関数としてプロットできます(Figure3b)。すべてのネットワークの信号-応答曲線は実際には非常に複雑ですが、それぞれのモジュールの基本特性を明らかに受け継いでいることがわかります。G1/SとG2/Mモジュールの典型的なS字の双安定な曲線と、負のフィードバックループ(M/G1モジュール)の振動解を見つけることが出来ます。負のフィードバックループによって作られた振動解は、G2/Mモジュールの双安定曲線と相互作用し、細胞の大きさが 1.25 のところで「無限周期(infinite-period)分岐を作ります。この分岐点(SN/IP)で、安定定常状態は大きな振幅の周期解に取って代わります。その振動の一周期は細胞の大きさが 1.25 付近では大変長く、細胞の大きさが 1.25 をこえて増えるにしたがって急激に小さくなります。
Figure3b(赤い線)では、細胞周期の進行を一連の分岐として見ています。小さな新生の細胞(大きさ 0.73 )は、安定なG1定常状態(Cdk1-サイクリンBが非常に低い状態)にひきよせられます。細胞が大きくなっていくと、そのうちサドルノード分岐(SN3)を通過します。ここではG1定常期が消え、細胞はS/G2(Gdk1-サイクリンBが中間的な値をとる)へと不可逆的に移行します。S/G2定常期が消えるのに十分な大きさになるまで、細胞はS/G2にとどまり、無限周期分岐(SN/IP)に取って代われれます。サイクリンB依存性キナーゼ活性は急上昇し、細胞の有糸分裂を誘導し、サイクリンBがAPC-Cdc20によって分解さえるにつれて急激に減少します。このCdk1-サイクリンB活性の減少は細胞が分かれるための信号となり、細胞の大きさが 1.46 から 0.73 へと二分します。そして制御システムはG1定常状態の誘引部分である出発点に戻ります。