*システムバイオロジーについて [#l0e875ee]

システムバイオロジーは生命科学の大部分を包括する分野として急速に分子生物学の座を奪っている。「システムバイオロジーとやらが何かは誰も知らないのだが、とにかくそれが私がいまからX分の間にはなすことです」という言葉ともに科学の講演を始めるのが一種のはやりとなりつつある。私はこれが大嫌いだ。もしこの台詞を聞くようなことがあったら、会議場から出ていった方がいい。科学の最前線に対して全く適応出来ないことを認める人間の講演に出て、時間を無駄にする必要はあるまい((こういうことを言う人が多いのは事実です。特にICSBではこの台詞を聞くことが多いです。ただ私の意見は反対で、むしろ「システムバイオロジーとはそもそも・・・」などというイントロを始める人の話の方がよっぽどつまらないことが多いです。大抵は「バイオロジー」にすらなっていません。自分の研究を突き詰めていったらいつの間にか、いわゆる「システムバイオロジー」と人から言われるようになってきたというたぐいの人たち(システムバイオロジーが何かは知らない人たち)の話の方がよっぽど中身があり面白い話が聞けます。GoldbeterだってTysonだって、近藤孝男だって、誰も自分のことをシステムバイオロジストとは言いませんが、彼らの仕事は明らかにシステムバイオロジーの中核をなすものです。))

システムバイオロジーの誕生(「復興」と呼ぶひともいるが)の目撃者として、私にシステムバイオロジーの(シンプルな)定義をさせていただくと:

「システム生物学は、そのすべての構成要素とそれら要素間の相互作用を考慮に入れた上で行われる生命システムの研究である。」

以上。それだけ。当たり前のように思われるが、これは実際のところ生物学においての新しいパラダイム、あるいは思考の枠組みである。これは時々耳にするようなコンピューターモデルに限られない。もちろんモデリングはこのゴールに達するためにとても(必須でないにしても)重要な道具であるけれども。

システムバイオロジーのアプローチは、還元論のアプローチに基礎をおいているはがそれとは異なる。実際にはシステムを構成している要素はバラバラではなくて一体化していると見なされ、最適範囲を外れても機能することが出来る。啓発的な例として神経伝達物質のレセプターを考えてみる。それらのほとんどは遺伝子ファミリーを構成している。これらのファミリー内の薬理的多様性を綿密に調べるために、多大な労力とお金、時間が費やされてきた。反応性の序列やナノ・マイクロモーラー範囲以下の感受性の違いが、それぞれの神経伝達物質にたいする効果を説明するために使われてきた。生理学的条件下では、しばしば、神経伝達物質の濃度はミリモーラー単位にまで急速に達する。別の言葉で言えば、すべての受容体が様々な神経伝達物質と同じように結合すると言うことである。

システムバイオロジーのアプローチは、現象学とも異なる。なぜならシステムバイオロジーではメカニズムの解明を試みようとするからであり、創発的な特性を考慮に入れるからである。現象学の典型的なアプローチでは入力のベクトルと出力のベクトルを利用し、システムの機能をこれらのベクトルの数学的変化として記述しようとする。これは「そこで用いられた入力ベクトルは、あり得る入力のすべての広がりを代表している」というとても大きな仮説に基礎を置いている。神経科学からのもう一つの例ー有名なMc Culloch-Pittsニューロン、あるいはより複雑な、統合あるいは発火ニューロンのような「形式ニューロン」ーについて考えてみる。それらは生物学的なニューロンの生物物理的な事実を再現しようとしているわけではなく、それらの挙動を再現しようという試みである。それらは信号が一方方向に進むという推測をもとにしている。しかし、私たちは今、樹状突起(ニューロンの信号受容部)の活性電位は2つの方向に進み、これが神経の可塑性に非常に重要であることを知っている(これが唯一の落とし穴ではない。もう一つは、少なくとも同じくらい大きな問題なのだが、古典的な「速い」神経伝達物質のそばにある、神経修飾分子の機能の省略である)。結果として、これらの形式ニューロンは非常に沢山のコンピュータツールを遺したものの、現実的なモデルを作るのに再び利用されることはない。

非常に重要なシステム生物学の副作用は、レベルnのプロセスを調べるためにレベルn-1の要素の機能を考慮しなければならないと言うことである。これは還元論や現象論とは大きく異なっている。両者はレベルnのプロセスを説明するためにレベルnの要素に依存しているのだ。例えば細胞内プロセスを理解するためには、分子の機能に依存する必要がある;臓器の機能を理解するためには、その組織を構成する細胞の特性を考慮に入れる必要がある。もちろん、この事実は、システムバイオロジストが必要とする知識は、他分野に渡っていなければならないことも意味していることになる。

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&color(blue){私たちは「システムバイオロジー」がやりたくて研究をしているわけではありません。システムレベルの生命現象を理解することを自分たちなりに追求すればよいのです(それがどんな方法論、アプローチをとっていても)。システムバイオロジーとお祭りごとのように騒ぎ立てるメリットは、この分野が、Niclasも書いているように様々なレイヤーの知識の総動員が必要となるからで、その為には分子生物学以外のありとあらゆる科学の分野の人間が集まらなくてはなりません。そのための「交流の場」を作ることにあると思います。};

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