*出芽酵母と分裂酵母の基本知識 [#a3cd3501]

出芽酵母 '''Saccharomyces cerevisiae''' と分裂酵母 '''Schizosaccharomyces pombe''' は2つの大変異なったタイプの酵母である((本来は種名や遺伝子名は斜体で書くが、このページでは以降特別な場合を除いて標準書式で記載する。))。分子系統学的な根拠からこれらは10億年以上昔に分岐したと考えられている。S. cerevisiae はその分岐の後、S. pombe よりも早く「進化した」と考えられている。

S. pombeは、分裂様式、セントロメア、イントロン、ヘテロクロマチンなどが、S. cerevisiae よりも動物細胞に似ている。一方、G1期とG2期の長さやシナプトネマ構造などは S. cerevisiae の方がより動物細胞に近いと考えられている。

**酵母が真核細胞の優れたモデル生物である理由 [#x4ac1291]
-実験室で簡単に操作できる。
-増殖が早い(1.5から2.5時間)。
-病原性がない。
-2倍体(cerevisiae)と1倍体(両者)状態が安定して維持される。
-1倍体が簡単に接合して2倍体になる。
--相補性テストが容易である。
-外部DNAを効率よく形質転換する。
--インテグレーション(ゲノムへの組み込み)
--自律複製プラスミド
-相同組み換え効率が高い。
--ゲノムへのねらったとおりの変異の導入が簡便である。
-遺伝的選択が簡便である。

**細胞の大きさと見た目 [#lb15e0e2]
-S. cerevisiae
--楕円形; 直径約5 µm
--出芽によって増殖する。

-S. pombe
--円筒形; 直径3-4 µm; 長さ7-15 µm
--中央で分裂して増殖する。

**生活環 [#md8f45e0]
-S. cerevisiaeは1倍体と2倍体の形態で存在する。1倍体には2つの性(a and alpha)がある。
-S. pombeは基本的には1倍体(h+とh-の性がある)で存在するが、接合によって一時的に2倍体となる。通常の条件では、2倍体細胞は即座に減数分裂を起こして1倍体の胞子を形成する。
-S. pombeの子嚢は線状なのに対して、S. cerevisiaeの子嚢はテトラポット状である。S. cerevisiaeのテトラポット状の子嚢は減数分裂の順番の情報を保持していない。しかしS.pombeの直線に並んだ子嚢はこの情報を保持している。
-性の変換:ホモタリズムとヘテロタリズム
--両酵母での性転換の機構は非常に面白い研究成果をあげている。
--野生株で見られる性転換
--ヘテロクロマチン化

**細胞周期 [#r0c2a2e3]
-S. cerevisiae
--G1期後期にスピンドル極体の複製がおき、S期中にスピンドルの伸長がおきる。従ってS. cerevisiaeのM期はG1とSとオーバーラップしており、はっきりとしたG2期が見られない。 
-S. pombe
--スピンドル極体はほとんどの他の真核生物のように、核分裂の直前におきる。しかし急速に増殖しているS. pombeでは細胞質分裂が(次の)S期までおきない。従って急速に増殖している状態での一番小さなS. pombeの細胞は初期G2にある。ほとんどのS.pombe細胞の増殖は、S.pombeの細胞周期のほとんどをしめるG2期におきる。

**代謝 [#d7dd3fff]
-両生物はグルコースで最も早く増殖する。グルコースは発酵によってエタノールになるか酸化をうけてCO2とH2Oになる。
-S. cerevisiaeは発酵を好み、酸素が存在していようともグルコースがある限り発酵を続ける。
-S. pombeは酸素がないときのみ純粋な発酵を行う。
-S. cerevisiaeはグルコース供給がなくなったときEtOHを用いた好気増殖にシフトする(diauxic shiftと呼ばれる)。

**ゲノミクス [#e287aa52]
-両酵母
--DNA ~60% A+T
--通常のコアヒストン; histone H1に非常に近い蛋白質は存在しない。
--性決定領域、テロメア、rDNA領域で転写のサイレンシングが見られる。

-S. cerevisiae
--染色体数 16本
--全ゲノム塩基配列解読済み (12 Mb; 約6,000遺伝子)
--小さなセントロメア (~120 bp)、ユニーク; 蛋白質と結合する3つの領域があり、それが分配のために単一の微少管と結合する。セントロメア領域での転写のサイレンシングはない。
--テロメアの繰り返し配列は (TG1-3)n [ヒトのテロメア配列は (TTAGGG)n]
--複製起点 (ARS因子) は、100-150 bp。
--イントロンの数は、300程度。約4.5%の遺伝子がイントロンを持っている。
--イントロンの数は、300程度。約45%の遺伝子がイントロンを持っている。

-S. pombe
--3本の巨大な染色体
--全ゲノム塩基配列解読済み (14 Mb; 約5,000遺伝子)
--大きなセントロメア (40-100 kb)、ほとんどは繰り返し配列; 一本以上の微少管と結合; セントロメア領域にある遺伝子は通常サイレンシングを受けている。
--テロメアは一見複雑 (T1-3AC0-1A0-2C0-1G1-8)n だが、一般的な繰り返し配列は TTACAGG [ヒトのテロメア配列は (TTAGGG)n]
--複製起点 (ARS因子) は、500-1500 bp。
--イントロンの数は、5000程度。約40%の遺伝子がイントロンを持っている。

**染色体外因子 [#h840c20d]
***ミトコンドリア [#k9d0a6f0]
-出芽酵母が好気と嫌気条件で増殖できるということは、ミトコンドリアの呼吸機能は必須でないことを意味している。このことから、ミトコンドリアDNAは望みの通りに変異を導入できるためミトコンドリアの遺伝学が容易に研究可能である。
-ミトコンドリアのゲノムを全て欠失さえることは可能であるが、核にコードされたミトコンドリア膜は全ての条件で生存に必須であり欠失させることは出来ない。
-S.cerevisiaeのミトコンドリア変異体は、増殖遅延を示すものの(発酵が可能な)グルコースでは増殖できるが、(酸素呼吸でしか代謝できない)グリセロールでは増殖できない。
-分裂酵母のミトコンドリアDNAは野生型細胞では必須であるが、ある種の核にコードされた遺伝子の変異によってミトコンドリアDNAの欠失した変異株を取得できるようになる。

***プラスミド [#h4a8a9ff]
-S. cerevisiae
--2 µm circle
---6.3 kbp
---60-100 コピー/細胞

-S. pombe
--天然のプラスミドは知られていない。

***S. cerevisiaeのメンデル則に従わない因子 [#hbecca76]
-プリオン様蛋白質
--優性
--核外
--キラー粒子やミトコンドリアとは無関係。
--自然播種
--例:
---[PSI+]/[psi-]
---フレームシフトの頻度が上がりサプレッションがおきる。
---ポリペプチド乖離因子Sup35pの構造変異体(凝集体)
---[URE3]/[ure3-]
---窒素代謝に影響
---窒素代謝制御因子Ure2pの構造変異体(凝集体)

***キラー粒子 [#p6b28229]
-不完全なdsRNAウイルスにコードされた致死性毒素
-Jeremy Bruennによって調べられた。

**遺伝子表記法 [#h3744e32]
-S. cerevisiae
--遺伝子名は3つの文字と数字で表す。
--優性のアリルは大文字で、劣性のアリルは小文字で表す。通常野生型は優性である(例外も存在する)。
--遺伝子名は斜体で表す('''YFG1''')。
--野生型は任意で+記号をつけることが出来る('''YFG1'''+)。
--変異アリルはアリル特異的な数字で示される('''yfg1-1''')。
--遺伝子破壊は、'''yfg1'''::'''URA3''' あるいは '''yfg1'''Δ と表される。
--蛋白質は一部を小文字で、斜体にせず表す(Yfg1 or Yfg1p)。

-S. pombe
--遺伝子名は3つの小文字と数字で表す。
--野生型は+記号で表す('''yfg1'''+)。
--変異アリルはアリル特異的な数字で示される('''yfg1-1''')。
--遺伝子破壊は、'''yfg1'''::'''ura4''' あるいは '''yfg1'''Δ と表される。

#br
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