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過剰発現実験の定量的側面

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この論文は、解説論文(perspective)なので、わざわざ解説する意味はない。また似た内容のやわらかい日本語解説を「化学と生物」に書いたので(発表は2016年8月らしいが)、ここでは裏話というかエッセイを書きたいと思う。

この論文は、依頼論文だ。つまり、「こういう原稿書いてくれないか?」というオファーを受けて書いたもの。オファーをくれたのは、トロント大学のCharlie Boone教授。分野が近いこともあったり、前のボスが出会いのきっかけを作ってくださったりで、要するに「知り合い」なのだ。

まあ、大抵オファーというのは知り合いからくる。なんか仕事を回されている気もしないでもなく、知り合いだから回してくれていて私の実力を認めてくれているわけでもないんじゃないかと訝ったりもするのだが、そのオファーが自分にとっての「初めて体験」で少しハードルが高いものだったりした場合には、成長の機会だとかチャンスだ思わなければなるまい。それにうまく答えられたら更に上のオファーがくる可能性がでる。

多少なりとも実力を認めてもらえている証左であり、それに恥じない仕事をしなければならない。

もらったオファーは、MBoCという、Cell Biologyの中堅雑誌がやっている「Quantitative Biology特集号ーBig Data Issue」へのperspectiveもしくは原著論文の掲載だった。基本的に私はオファーはスケジュールがぶつからないかぎり受けるようにしている。そして今回は、ちょうど今回の論文の内容を書く場所を探していたので調度よいタイミングだということで引き受けた。

この論文で書いたことのもっとも重要な趣旨は、タイトルにあるように「過剰発現実験の定量的な側面」だ。それを踏まえると見えてくる、細胞のタンパク質合成のキャパシティー、そして過剰発現がもたらす細胞機能欠損の一般的な4つの原理である。

これは、自分で言うのも何だが、私にしか書けなかったことだと思う。実は私の他に2人にこの論文を手伝ってもらったのだが、最終的には2人から「これは私の論文だ」というありがたい同意を頂き、単著で発表させてもらった。そのことも初めて体験なのだが、それも含めてこれが発表できたことの意義はとても大きいと自分自身思っている。

さて一番初めの「定量的側面」に対する主張は、実は5年以上前から始まっている。gTOW6000という論文を書く際に、いろいろな経緯があって妥協して思う存分書けなかった主張だったのだ([[そのあたりの経緯は以前書いた:http://tenure5.vbl.okayama-u.ac.jp/~hisaom/HMwiki/index.php?%E6%88%90%E6%9E%9C%E7%99%BA%E8%A1%A8%2F%E8%AB%96%E6%96%87%E7%99%BA%E8%A1%A8%2FgTOW6000%E8%AB%96%E6%96%87%E7%AC%AC4%E7%AB%A0#ec015891]])。当時思う存分書けなかった理由はCharlie Boone氏らの先行研究をディスる主張だったからなのだが、今それをディスらない感じでうまく対比させ解説する技能を身に着けたから書き上げることができたとも思う。。

タンパク質合成のキャパシティーは面白い考察だと思うし、過剰発現がもたらす機能欠損の一般的な原理も、自分的にはとても良くまとまっていて他に見たことがないものになっていると思う。

というわけで、私としてはこの論文は(この論文も)自分史のマイルストーンの一つになったと思う。英語力のせいでそれがどれくらい筆者に伝わるのかはわからないが、自分にとっては今後しばらく「軸足」になるような論文だと思う。「過剰発現実験」というものを考えるときに、世界の研究者が一度は読む論文になってくれたら嬉しい。本当に手前味噌ではあるが、それだけの内容はあると思っている。

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話がそれるが、私の友人がある先輩研究者に「論文をたくさん書け。私なんか今年どれくらい論文書いたかすでに忘れた」と言われたらしい。残念ながら私はそんなに論文を量産していない。だが、自分の書いた論文を忘れるような無責任なことでいいのだろうか?少なくともこれまでの私の一貫した態度は、「世に出すべき必要のある内容を思い入れを持って発表しそれに対する責任を持つ」というものであり、だとすればそんなに大量の論文はかけないし、また書いた論文一つ一つはきちんと強く記憶に残るものになるはずだ。これまでもそうであったし、今後もそうありたい。

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