*正のフィードバック:不可逆スイッチ [#d106a83b]
Figure1dでは、信号 S は応答 R を反対方向に進める2つ経路に対して同時に影響しました(フィードフォワード制御の一例です)。それとは反対に、反応経路のいくつかの要素が信号に対してフィードバックを起こすこともあります。フィードバックは正である場合、負である場合、両者が混合している場合があります。
正のフィードバックには2種類あります。Figure1eでは、R が蛋白質 E を(リン酸化によって)活性化し、 EP (リン酸化された E )が R の合成を促進します。Figure1fでは、R は E を阻害し、E が R の分解を促進します(R と E は相互に拮抗しているのです)。これら相互活性化・相互拮抗いずれの場合でも正のフィードバックは不連続なスイッチを作り、信号強度が臨界値を越えると、急激かつ不可逆的に細胞の応答を変化させます。例えば、Figure1eでは信号強度(S)が増加しても、S がある限界強度を超えるまでは応答は低く保たれていますが、臨界強度 Scrit で応答は急激に高い値に増加します。一方、S が低い値にもどっても応答は高いままですーつまりスイッチは不可逆的なのです。S が 0 から Scrit の間ではこの制御系は「双安定(bistable)」であることに注目してください。双安定とはつまり、応答が定常状態で2つの安定な値をもち(2つの実線で描かれた上と下の分岐です)、これが不安定な定常状態(点線で描かれた中間の分岐)に分けられている状態です。
**正のフィードバックの信号-応答曲線 [#aaefc752]
上の信号-応答曲線は「1パラメータ分岐図(one-parameter bifurcation diagram)」と呼ばれています。パラメータは信号の強さですが、生物学実験で操作することが出来ます。Y 軸に示されている定常状態の応答は、信号の変化に伴う制御システムのふるまいの指標です。制御システムのふるまいは、Scrit において、低応答状態から高応答状態へ(あるいはその逆へと)と急激かつ不可逆的に変化します。非線形システムのふるまいの中でこのような質的変化を見せる点を分岐点(bifurcation point)(この例の場合は「サドルノード(saddle-node)分岐点」)と呼ばれています。この後、この解説ではより複雑な信号-応答関係に見られるさらに難解な分岐点について紹介します。
非連続な応答には2つの種類があります。ひとつは、一方的スイッチ(one-way switch: Figure1e)で、もう一つは切り替え(トグル)スイッチ(toggle switch: Figure1f)です。
一方向スイッチには帰還不能点(point-of-no-return)があり、一度応答がオン状態になると、信号を下げてもオフ状態に戻ることが出来ません (例として21) 。このような機構は発生のプロセスで主要な役割を持っていると考えられます。プロジェステロンに応答しておきるカエルの卵の成熟は、特によくわかっている例です (36) 。アポトーシスも一方向スイッチによってなされる決定機構のもう一つの例だと思われます。
上の図(右)に示したように、トグルスイッチでは、一旦オン状態になっても S が十分にさがるとオフ状態に戻ります。中間的な信号の強さでは(Scrit < S < Scrit2)、S がどのように変化してきたかによってシステムの応答が小さいか大きいかの2つの状態をとることができます。このような、双方向の不連続なスイッチは、しばしば、履歴現象(ヒステリシス、hysteresis)と呼ばれます。大腸菌のlacオペロン (21) や、カエルの卵のM期促進因子(M-phase-promoting factor: MPF)(37) 、プリオン蛋白質の自己触媒による正常蛋白質から病原性構造への変化 (38) などはこの良い例です。
**双安定性の実験による検証 [#e63466d0]
カエル卵抽出液でのMPFの双安定なふるまいは2つのグループ:Shaら (39) と、PromereningとFerrellらの実験によって確認されました。Chenら (9) は、このトグルスイッチが出芽酵母の細胞周期の「start」と「finish」の転換を制御していることを提唱しました。この予測はのちにCrossらによるすばらしい実験によって確認されました (40) 。
トグルスイッチは相互抑制(mutual inhibition)や相互活性化(mutual activation)による人工的な遺伝子ネットワーク (41 ならびに42) でも実現されています。これらのネットワークはこの解説で記述されているような理論を土台にして設計されています。
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