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出芽酵母のgTOW用プラスミド

プラスミドの構造と歴史

プラスミドDNAは私たち分子遺伝学をやるものにとって重要な「道具」です。その塩基配列にはこれまでの改良の歴史がつまっており、これを知っておくことはこの道具を使ったり改良したりする場合にとても大切な知識なのですが、なかなか体系的にまとめられていることがありません。そこで私がこれまでにプラスミドの歴史や構造をいろいろ調べたものをここにまとめてみたいと思います。

出芽酵母の遺伝子綱引き用のプラスミドの構造

ここでは遺伝子綱引き(gTOW)法の初期バージョンで用いたpTOW(pSBI40)の構造について解説します。

pTOW(pSBI40)はそもそも、銅誘導性プロモーター(CUP1プロモーター)を使ってGST融合蛋白質を出芽酵母(S. cerevisiae)内で高発現させるために作られたプラスミド(pYEX4T-1)をベースにしています*1。pYEX4T-1はRochester大学のEric M. Phizickyのグループが酵母の全ORFをGST融合蛋白質として発現して遺伝子産物を機能スクリーニングするという目的で用いられたため非常に有名になりました*2。その後ほとんど同じシステムがYale大学のMarc Snyderのグループから発表されましたが*3、このときに用いられたのはガラクトース誘導性(GAL1)プロモータを用いたpEG(KT)で、その後こちらのプラスミドを使ったゲノムコレクションが売り出されるにいたっています*4

pSBI40はこのCrappy collectionのコントロールプラスミドをMark Johnstonからいただいたもので、pYEX4T-1のBamHIサイトに後ろにTwo-Hybrid System用のplasmid(pGAD-C2)のGal4−ADの後半一部とADH1ターミネータを挿入した構造になっています。私はpYEX4T-1のつもりでMark Johnstonから頂いたのですが、なぜこんな変なプラスミドを彼らが持っていたのかは不明です*6

いずれにせよ、gTOWで必要な条件は、

  • マルチコピーになり、細胞集団内である程度細胞間にコピー数のばらつきを持たせる複製起点(2 micron ori)をもつこと
  • コピー数をあげるバイアスのない(一コピーで十分な)選択マーカー (URA3など)があること
  • コピー数をあげるバイアスとなる選択マーカー (leu2dなど)があること であり、pSBI40はこれらの条件を満たしていました。実際のgTOW実験では蛋白質の過剰発現に用いるCUP1プロモータからADH1ターミネータまでが標的遺伝子と置き換わります。

ちなみにpSBI40というネーミングは、システムバイオロジー研究機構(SBI)のデータベースに登録した40番目のプラスミドという意味です。

pSBI40の物理地図

psbi40.png
 

補足:2 micron DNAの解説

ここで2 micron DNAについても少し解説しておきます。2 micron DNAとはS. cerevisiaeに内在的に存在している6318塩基対の環状DNA (plasmid)で、複製起点、自分自身の増殖とコピー数制御に必要なRep1、Rep2、Raf1蛋白質をコードする領域とリピート配列REP3、ローリングサイクル複製の時の組み換えに必要なリコンビナーゼ(Flp1)をコードする領域、さらにその部位特異的組み換えに必要な2つのリピート配列だけからなっています。このリピート配列にはFlp1が結合するための配列があります。IR: gaagttcctattctctagaaagtataggaacttc(下線部が回文配列となっています)

このプラスミドは自分のコピー数を維持するためだけに酵母細胞内に存在する利己的DNAだと考えられています。自然な状態の2 micron DNAは自身が持っている複製・コピー数制御システムによってそのコピー数が一細胞あたりおよそ50コピーになるように厳密な制御を受けています。また、分配についても酵母の染色体に結合した形で安定に分配されていきます。このようなプラスミドはその部位特異的組み換え酵素と二つのリピート配列間の相同組み換えによって、フリップフロップと呼ばれるような向きの転換を起こします。すなわち、AとBのような2つのタイプが存在することになります。

typea.jpgtypeb.jpg

ちなみにpYEX4T-1などのpJDB219系のプラスミドはタイプA、前出のpGAD-C2などYEp13由来のプラスミドはタイプBのバックボーンを持っています。

2 micron DNA由来のPlasmidは酵母菌内で複製能力を持つ領域を持っていますが、複製やコピー数制御に必要な蛋白質をコードする領域を持っていません。これらは内在性の2 micron DNAから供給されます。従って、内在性の2 micron DNAを持たない酵母菌株中では、2 micron DNA由来のベクターは非常に維持されにくくなります。

また、2 micron DNA由来の領域には一つのFLP siteを含みますが、ここには4bpの挿入変異があるため、内在性の2 micron DNAと相同組み換えを起こすことはないと考えられます。また、このFLP siteがないためにローリングサイクル複製は行わず、1細胞周期につき2倍という複製サイクルを持つものと思われます。しなしながら実際のところ内在性の2 micron DNAそのものに比べて2 micron DNA由来のベクターの複製・維持機構についてはあまり詳細に調べられていません。これは単に「マルチコピーのベクター」という道具としての利用に重点が置かれているからだと思われます。

2 micronベクターは染色体の複製起点を持つARSプラスミドに比べて非常に安定に細胞に維持されることが知られています。これは上記のような理由から、おそらく複製機構の差というよりもその安定な分配機構に原因があるのだろうと考えられています。

 

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2019-09-22 (日) 09:17:46

*1 pYEX4T-1は一時期Clontechという会社から売り出されていたが現在は発売されていません。
*2 Martzen MR, McCraith SM, Spinelli SL, Torres FM, Fields S, Grayhack EJ, Phizicky EM., A biochemical genomics approach for identifying genes by the activity of their products., Science. 1999 Nov 5;286(5442):1153-5.
*3 Zhu H, Bilgin M, Bangham R, Hall D, Casamayor A, Bertone P, Lan N, Jansen R, Bidlingmaier S, Houfek T, Mitchell T, Miller P, Dean RA, Gerstein M, Snyder M., Global analysis of protein activities using proteome chips., Science. 2001 Sep 14;293(5537):2101-5.
*4 ちなみに私がセントルイスのWashington大学のMark Johnstonの研究室に留学したとき、ちょうどPhizickyとSnyderのコレクションを両方利用し始めているときで、Phizickyのコレクションはクローニングの確認がきちんとされていなかったためインサートが入っていないクローンが多く、“Crappy Collection”と呼ばれていました。一方Snyderの後発のコレクションはインサートの確認と塩基配列の確認もされていて良いコレクションとされていました。ちなみに2005年に彼ら両者の名前が入った、新しいコレクションが作られています*5。こちらはBG1805というベクターが使われています。
*5 Gelperin DM, White MA, Wilkinson ML, Kon Y, Kung LA, Wise KJ, Lopez-Hoyo N, Jiang L, Piccirillo S, Yu H, Gerstein M, Dumont ME, Phizicky EM, Snyder M, Grayhack EJ., Biochemical and genetic analysis of the yeast proteome with a movable ORF collection., Genes Dev. 2005 Dec 1;19(23):2816-26.
*6 彼らのラボのデータベースにも詳しい記載はありませんでした