Tyson2003の解説 の変更点

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この解説論文は生命現象のモデリングの方法を学ぶには非常に適したテキストですが、一般的な実験系の生物学者がすぐにモデリングやシミュレーションを始めるには十分ではありません。

-数式に対応した図式があまりにも簡素化されていて、実際の生化学現象のイメージとの対応をつかみにくいこと
-モデリング独特の簡略化・抽象化がどのように行われるのかということに対する解説がないこと
-これらの数学的記述を実際に動かす(シミュレーションする)方法の提示がないこと

などがあげられます。もちろんこれらはこの解説の主旨からは外れてしまうので、ここに記述されていないことは当然なのですが、それらに対する解説を加えより理解を深めるための手助けとしたいと思います。

近年、分子生物学を学んだ者がこの論文で述べられているような微分方程式系を用いたモデリング・シミュレーションを行えるようにというコンセプトのソフトウェアがいくつか開発されています。この解説では、[[CellDesigner:http://celldesigner.org]]を利用して解説を進めたいと思います。
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*微分方程式のモデルの読み方 [#ma54db90]
まず、Tysonの論文にいきなり登場する微分方程式をどう読めばよいのかということから説明します。
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#ref(http://tenure5.vbl.okayama-u.ac.jp/~hisaom/HMwiki/media/%E6%95%B0%E5%BC%8FA.jpg,center,wrap);
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(a)は質量作用則(law of mass action: MA)を使ったごく一般的な式といえると思います。(a)は、R(例えば蛋白質R)の変化率(小さな時間刻みにおける変化量:つまり変化の速度)を表しており、右辺のプラスの項は流入(合成)を、マイナスの項は流出(分解)を表しています。k0 という定数は、蛋白質Rが常に一定量作られていることをあらわし、k1 x S の意味するところは、S の量に比例して蛋白質Rが作られることを意味しています(この部分がMAです)。左辺のマイナス項は、蛋白質が分解されることを示しています。これもシンプルなMAで、蛋白質の存在量に比例して分解速度が変わることを示しています。

これが何を意味しているのかを本文で使われているネットワーク図よりも細胞内の現象に近いイメージとしてつかむと以下のようになります((この記述方式は、[[CellDesiger:http://celldesigner.org]]で採用されているGraphical Notationという手法で、直感的でありながら、世界中の誰が見ても同じことを表しているように見えることを目指した記述方式です(電気回路図と同じ概念です)。詳しい解説は文献をごらんください。))((蛋白質Rの材料とRが分解されてできたもは同じアミノ酸ですが、細胞内に(ほぼ)無限に存在していて、システムの挙動に影響を与えないと考え、実際のモデルには記述されていません。このような要素のことをモデリングの世界では「境界条件(boudary condition)」と読んでいます。モデルの記述の方法によっては、境界条件をはっきりと記述し定義しておく必要がある場合もあります([[CellDesiger:http://celldesigner.org]]が使っているSBMLというモデル記述形式ではこの記述の必要があります)。))。
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#ref(http://tenure5.vbl.okayama-u.ac.jp/~hisaom/HMwiki/media/Linear.jpg,center,wrap,400x200,70%);
#ref(http://tenure5.vbl.okayama-u.ac.jp/~hisaom/HMwiki/media/linear.xml,center);
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このモデルにもう少し情報を付け加えるとこうなります。
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#ref(http://tenure5.vbl.okayama-u.ac.jp/~hisaom/HMwiki/media/ModelA.png,center,wrap,400x200,70%);
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蛋白質Rがその材料のアミノ酸(a.a.)からリボソームによって合成されます。このときmRNA(S)が翻訳されるのですが、これを非常に簡素化して「mRNAが蛋白質合成を活性化している」ように記述しています。これは実際の分子メカニズムからすると多少違和感がありますが、mRNAの量が増えればそれに比例して蛋白質の量が増えることを端的に表しています((これは翻訳過程でおきる分子機構をほとんど省略していますが、「モデル化」においてはしばしばこのように、システムの特性を議論するために本質的ではない部分を簡略化する作業が行われます(逆に言うとそれこそがモデル化であるともいえますが)。今回の場合で言えば、一般的な蛋白質発現のためのモジュールに複雑な転写・翻訳の分子機構をモデル化する必要はないと考えて良いでしょう。こういった簡略化によって、記述をシンプルにして現象の本質を理解しやすくするとともに、計算式やパラメータ、計算量を減らすことが出来ます。))。

このモデル(と言うほどのものではありませんが)のSBML((SBMLとは、Systems Biology Markup Languageの略で、システムバイオロジーで用いるモデルの標準記述形式です。))ファイルはダイヤグラムの下にくっつけているLinear.xmlです。ファイルを保存して[[CellDesiger:http://celldesigner.org]]で開いてみてください。そして、Simulationしてみてください。時間経過とともにRが蓄積して一定の値でとどまります。これが合成と分解が釣り合った「定常状態」です。合成(k0, k1)や分解(k2)のパラメータを変化させることでRの量がどうなるか調べてみてください。
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これが一番単純な、蛋白質の変動を記述するモジュールです。Tyson2003の論文にはここからさらに複雑な、様々な挙動を起こすモデルが登場します。
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[[線形と双曲線の信号ー応答曲線>Tyson2003/Page2]]のページへ

*常微分方程式を用いたモデリングのプロセス [#xf4d35be]
Tyson2003に登場するような微分方程式を用いて細胞内のネットワークをモデリングするには通常以下のようなプロセスを踏みます。論文中にも記載があることですがより具体的な例としてご覧ください。また[[ODEモデリング]]のページも参考にしてください。

+対象の生命現象に関わる遺伝子・蛋白質の機能的つながり(生化学反応)を模式図(ダイヤグラム)に記述する。
+それらの機能的つながりを、連立微分方程式で記述する。
+それぞれの要素の初期値、反応速度などのパラメーターを設定する(ここまでをモデリングという)。
+連立微分方程式を数値解析的に解く(シミュレーション)。

たとえば具体的なモデル((Chenら(2004)の出芽酵母細胞周期のモデル))を例にとると、細胞内のサイクリンCln2の存在量をモデル化しようとした場合のダイヤグラムと微分方程式は下記のようになります。Clb2蛋白質の制御はもっと複雑なので下図右のようになります((これは[[CellDesiger:http://celldesigner.org]]を用いて描いたダイヤグラムです))。
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#ref(http://tenure5.vbl.okayama-u.ac.jp/~hisaom/HMwiki/media/ppt/up2.png,center,wrap,720x540,50%)
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