私が思う、「酵母遺伝学フォーラム」

開催まであと355日

今回のエントリーでは、酵母遺伝学フォーラム(以降、「フォーラム」)そのものについて考えてみたいと思います。ロゴに関するエントリーで、どういう経緯でこの名前がついたかは少し書きました。当たり前ですが、私自身もはじめからこの会に参加しているわけではなく、最近は運営委員でもないので、今現在どういう考えのもとで会の運営がなされているか、そんなに詳しいわけではありません。

なのですが、なにか普通の学会と違って堅苦しさがない、一方で、ふわっとした研究会みたいなものとも違い、伝統のようなものもの感じる。特に、杉浦麗子先生のご寄付で作られたFly High Awardなんか、なんかすごいオーラがある(杉浦先生にオーラがあるからかもしれない)。

学会なんてものは、だいたい仲のいい初期メンバーが始まって、それがだんだん大きくなって、「ちゃんとした組織にしよう」みたいになって、それに伴ってだんだん面倒くさい仕組みができて、しまいには会の存続自体が目的みたいになって、初期メンバーの「会への愛」が現メンバーにはウザくなっていく、などということになるんだと思ってます。

一時期これが問題になって、つまり、「学会ばっかり増えて運営が大変だから合同でやろう」みたいなことも結構ありました(今もあります)。でも、「解散した」って話は聞いたことがない。それは、参加者が継続することに意味があると思っているから、ということもあるのでしょうけど、一方で単なる初期メンバーのノスタルジーで続いているというのもあるのではないでしょうか。

とまあ、関係ない私見を述べてしまいましたが、フォーラムもちょっと危ない時期はあったと思います。分子生物学により生命システムを作っている分子とその機能が次々と見つかって、それがつながって全体像が見えてくるワクワク感があった時代があります。そしてその時、酵母研究者は、その強力な分子遺伝学を駆使し、細胞が行う生命現象がどのような遺伝子やタンパク質から生み出されるかを続々と解明し、生命科学において中心的な立ち位置にありました。

誤解を恐れずにいうと、そのピークは過ぎたと思います。「生命科学のすごい謎を解きたい」と思った場合に、もう酵母は第一選択ではない。そういう危機感があった、つまり、「酵母の研究は終わるかもしれない」という感覚があった時期がありました。私は、研究分野が終わる時というのは、次世代の研究者がその分野に流入しなくなった時だと思っています。具体的にいえば、「酵母を対象とした新しい研究室が立ち上がらない」、あるいは、「学生が酵母の研究室に来なくなる」ということです。

その危機感の時代のあと、酵母研究はどうなったのでしょうか?

私は、酵母研究(あるいは酵母研究者)は、着実に根を広げていると感じています。酵母を研究対象とした新しい研究室ができ、そこに学生が集まっている。それはなぜなのでしょうか? 私はいくつかの理由で説明できると思っています。

1.なんだかんだで酵母は生命科学を牽引している

結局、最先端の生命科学においても、酵母じゃないとできないことは、いまだたくさん存在している。最先端の解析技術のテストケースとして使った時に、強力な分子遺伝学のおかげで仮説検証が簡単にできる。培養コストが低いので大規模化・自動化できる。つまり、トップレベルの研究も牽引している。

2.安い

先日の研究報告会で小林武彦先生が仰ってましたが、酵母はやはりなんだかんだ言って安い、研究設備も大規模なものは必要ない。たくさんの学生を抱えていても、それぞれのテーマで研究できるというメリットがあります。ですので、大規模じゃない研究・教育機関だったとしても、「研究室」を作りやすい。

3.自分のテーマとして研究できる(仮説検証が早い)

安くてたくさん実験が打てるし、結果が出るまでが早い。仮説立ててすぐ結果が出てくる。解けていない謎なんていくらでもあるので、それら1つずつの謎に対して、学生ひとりひとりが「自分事」として、なぞ解きに挑める。それは、「研究」という人間活動の楽しさを教えてくれるいい教育材料になります。その楽しさにハマった人が、酵母研究を続けようとします。

4.酵母は応用微生物の代表である

酵母は、アルコール飲料やパンなど、食品に使われてきた長い歴史のある応用微生物の代表で、そこはこれからも揺らがない。酵母は微生物の中でも本当に特殊な存在で、野菜やくだもの、家畜、ペットのように、人間と一緒に過ごしたくて生まれてきたのではないかとすら思えます。そういう、愛されている、イメージの良い生き物なんです。アルコール飲料を飲んだときに、「私の研究対象に乾杯!」って思える幸せは、他のモデル生物では決して味わえません。

そんなこんなで、現在のフォーラムに参加して発表を聞いていると、純粋に楽しいのです。実は、先に書いた酵母が生命科学を牽引していた時代は、フォーラムはもっとピリピリしていました。名を上げたい人たちが集まっていたから、あるいは「先に分子を同定したものが勝つ」という分子生物学の時代だったからかもしれません。

「そういうピリピリ感がなくなって寂しい」と、古い参加者の中には思っている方もいるかもしれません。その転機になったのは、学生の口頭発表賞ができてからだと思っています。以前は、学生も一般に交ざって発表していて、甘い発表をしたら質疑でコテンパンでした。なので、よっぽどガッツがある学生以外は発表しなくなっていった。それはそれで、「それでこそフォーラム」ではあったのでしょうが、「門を閉ざしている感」は否めず、結果として若い人の参入障壁になって、先が危ういように見えていたというのはある。

学生の口頭発表賞ができて数年で、「学生が安心して発表できるセッション」ができて、学生がたくさん発表するようになりました。それが、現在の会の安定感につながっているのだろうと思います。そして、来年の研究報告会をどんな会にしたいか、するべきかと直結する最後の問いになります。

それは、「酵母遺伝学フォーラムは、今のままで良いのか?」、です。

私は、良いと思っています。なぜなら、今の状態に危機感がないから。ですが、こういう考えもできる。私は、ただのゆでガエル、あるいは正常化バイアスに陥ってる。若者が減っていくことが確実な少子化社会、発展への努力を続けておかないと、かならずフォーラムも先細りになる、衰退する。そうかもしれません。けど、正直、それでも良いでしょう。酵母遺伝学フォーラムはこれまでも、組織を維持するためにあがく組織ではなかったし、これからもそれで良い。だからこそ純粋に酵母研究を楽しむ人たちが集まり、それがまた楽しくて次も来ようと思う。

酵母遺伝学フォーラムは、公益社団法人やら特定非営利活動法人といった法人格がありません。その手の非営利団体(NPO)は、Slackの無料でプロプランを使える特典があるのですが、フォーラムは法人登録してないんです。つまり、みんながみんなの意思で集まってる任意の団体です。たしか、以前の運営会議で、特許がらみの発表がある時に公式な学術団体じゃないと困るから、みたいな議題があって、学術団体としての登録(?)をしようかという話になったのですが、結局その登録はしなかったということなのでしょう。

なぜか、普段は(堅苦しい)学会に参加している人も、フォーラムでは「気楽さ」を重視して、なるべく堅苦しいことをいわない。それがフォラームの一番良いところです。・・・という結論に皆さんを連れてきて、「だから次回の研究報告会では、いろいろ不満があっても堅苦しいことを言わないでくださいね」、という私からのメッセージになるわけです。

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