第4部:いろいろなgTOW

gTOWは現在でも守屋研の中心的実験系だが、そのサブタイプのようなものがいくつか存在する。それらは主に異分野コア時代におこなったもので、学生や研究員が担当した。メインストーリーからは少しそれて、それらを紹介する。

TIPI-gTOW

gTOWはプラスミドコピー数を上げて過剰発現する実験系である。ロバストネス解析で遺伝子発現のパラメーター範囲を知りたいというのであれば、発現の上限だけではなく下限も知りたい。gTOWを発表すると、大抵、「下限は調べられないのか?」と聞かれていた。実のところ、下限を調べるのは結構難しい。少なくともプラスミドコピー数では調べられないし、gTOWのような綱引きでも調べられない。それでもどうしてもgTOWと組み合わせたい、ということで考えたのは、何らかの分解系をgTOWプラスミドに載せ、コピー数増加により分解系をより強く誘導するというものだった。オーキシンデグロンを試してみたがうまく行かず、結局、TIPIという系がうまくワークした。デグロンの誘導を促すTEVプロテアーゼをpTOWプラスミドに載せ、つなひきでそのコピー数を上げることで、標的タンパク質の分解をできうる限り促すという系だった。

TIPI-gTOWの模式図。Sasabe 2014より

この系は、大学院生の進谷紗弓氏と博士研究員の雀部正毅氏が作ったもので、BMC systems biology誌に掲載された(Sasabe BMC Syst. Biol 2014)。ただ、オリジナルのgTOWに比べると実にいろいろ面倒く、破壊株やシミュレーションと組み合わせてなんとかストーリーはできたが、あまり使い勝手の良いものではない。「下限が測りたいんだったらこういう風にやればできるぞ、だけど、ほら、こんな風に面倒くさくなるぞ」というのを示せたということでは意味がある。

哺乳類gTOW

酵母のような真核細胞をモデルとして使っている人は、たいていの場合、自分の成果でヒトの病気が治るだの薬が作れるだのという方向に話をもって行く。この下品な話の展開は、実際守屋も使っていた。gTOW6000の論文は山陽新聞の記事になったが、そこに「がん原因解明に光」などと書いてある。まあ実際、可能性はなくはない。どんなことが何に繋がるのか分からないのが基礎研究だ。

gTOW6000論文を発表したときの記事

それはいいとして、やっぱりヒト細胞でgTOWができなきゃダメだと言うことで、培養細胞でのgTOWの開発にも取り組んだ。これは、大学院生の森 吉弘氏が成功させて、Scientific Reports誌に論文を発表した(Mori Sci. Rep. 2020)。はじめの頃は、酵母のgTOWとまったく同じようにプラスミドコピー数が選択圧で収束するような系を考えていて、良さそうなプラスミドを探したり選択マーカーを考えたりしていた。しかし、培養細胞は酵母よりも遙かに世代時間が長いし細胞の数を稼ぐこともできないのでNG。一方で、培養細胞へのプラスミドの導入率は、微生物とは比べものにならないほど高い。それならば、標的遺伝子の組み込まれたプラスミドをとても濃い溶液にして導入してやれば、限界のコピー数までプラスミドが導入されるだろうというアイデアがこの系である。

細胞集団に大量のプラスミドを導入する。限界を超えてプラスミドが導入された場合には細胞が死ぬ。また、プラスミドが入っていない細胞は薬剤で殺す。そうすると死にそうな限界までプラスミドが入った細胞が生き残る。その状況をフローサイトメトリー(FACS)で解析する。この、「細胞集団に向かって大量のプラスミドをショットガンのように放ち、生き残った細胞を調べる」という方法に関しては、「ショットガンーサバイバル法」という名前を考えたのだが、さすがに倫理的な問題があると思ったのでやめた。

ヒト細胞に対するgTOW。Mori 2020より

この実験は、gTOWのようなややこしい遺伝学も使わず、すごく単純で簡単だ。gTOWと同等に、タンパク質発現量の限界をヒト細胞で調べられるようになったのは、十分な意味がある。しかし、現在守屋研ではヒト細胞等の培養細胞は使っていない。これもリソースの集約のためである。あと、この実験では異分野コアに着任の時に買ってもらったフローサイトメトリーが役に立った。

大腸菌gTOW

「大腸菌でgTOWができないのか?」というもの、ヒト細胞と同じようによくされる質問だった。実際には異分野コア着任後に少しトライした。大腸菌にも当然多コピープラスミドがあり、酵母と同じことができるはずだと思ったのだが、なかなか結果が安定しなかった。大腸菌への愛が守屋にたりなかったせいかもしれない。また機会があればトライしてもいいかもしれない。

gTOWi

これは系だけはできたが、眠っている実験系。gTOWプラスミドは多コピーになることが利点だが、プラスミドなので脱落する。多コピーでゲノムに組み込めないか考えたのがこの系。さすがに100コピーは行かないが、数コピーまでの挿入は確められている。面白い系なので何かに使えないか考えておきたい。

第5部:量補償ーgTOWの弱点から始まったプロジェクトに続く。