2026-03-082026-03-08 自然界から酵母をとってくる(後編) さて、ちょっと間が空いてしまいましたが。「自然界から酵母をとってくる」の後編です。後編は最初にネタばらしをしておきます。 Saccharomyces cerevisiaeを自然界から採ってくることに成功! ビールは作れなさそうな野生酵母 野生酵母の野性的な生き様を垣間見た です。前回のエントリーでハイキングに行き、発酵力をもった出芽酵母を手に入れることに成功しました。次にやるべきは、それらの酵母がいわゆるパンや酒の発酵に使われているSaccharomyces cerevisiaeかどうかを同定するという作業です。 DNA解析で酵母の種同定を行う 生物の種同定とは、現代ではほぼDNA解析と同義で、特定の遺伝子のDNA、あるいはDNAの全部(ゲノム)の配列を決定し、既知の生物のDNAの配列と比較することで行われます。今回は取ってきた酵母のRPS12という遺伝子をPCR法によって増幅し、その塩基配列を決定しました。 増幅したRPS12遺伝子。左から①,②, ④大, ④小。①はこの時は増幅しなかった。 増幅できた遺伝子のDNAの配列をシーケンサーで読み取ります(①は後から増幅できたのでこれも読み取った)。読み取られた配列を「BLAST検索」して、既知の生物の塩基配列とマッチするか調べて、種同定を行います。 下がその結果。 酵母サンプル名 DNA配列が一致した生物種①(木くず) Torulaspora delbrueckii②(樹液)Saccharomyces cerevisiae④大(落ち葉)Candida maltosa④小(落ち葉)Saccharomyces cerevisiae 来ました、Saccharomyces cerevisiae! 人生で初めて野外からS. cerevisiaeをゲットしました! 樹液は目論みどおりでしたが、落ち葉にもいるんですね。ちなみに②と④小のRPS12の配列は若干ちがっていたので、2種類のS. cerevisiaeの分離株がとれたみたいです。それから、今回のハイキングに一緒に行った学生もS. cerevisiaeをいくつかつかまえています。これらも異なる分離株のようでした。 野生酵母はビールを作れるか? S. cerevisiaeといえばビール(エール)酵母なので、取ってきた酵母がビールをつくれそうか試してみることにします。酵母がビールをつくるためには(ビール酵母であるためには)、いくつかの性質を持っている必要があるのですが、まず一番大事なのは、「麦汁を発酵できるか?」です。麦汁に含まれるマルトースという糖を食えるか(発酵できるか)、というのが大事で、この能力はそこら辺のS. cerevisiaeにはあまりないことが知られています。マルトースを食べてアルコール発酵してくれないと、アルコール度数が上がりません。 ということで麦汁様の培地で酵母を飼ってみて、麦汁を食べられそうかを調べてみます。まずは、対照実験(コントロール)として、実験室酵母とビール酵母、ワイン酵母の増殖を調べてみます。微生物の増殖は培養液の濁度(OD)で知ることができます。濁度が高くなるのが酵母が増えている証拠です。 麦汁様の培地で、対照となる酵母の増殖を調べてみる 実験室酵母(灰色)の増殖は頭打ちになりますが、ビール酵母やワイン酵母は盛んに増える事ができます。ワインの原料のブドウ汁は、ブドウ糖(グルコース)がほとんどで、マルトースはあまり含まれていないから、ワイン酵母は麦汁で増えなくてもおかしくないはずですが、このワイン酵母は増えますね。 次に、取ってきた酵母。S. cerevisiaeと、ついでにT. delbrueckiiも調べてみました。 麦汁様の培地で、野生酵母の増殖を調べてみる(1/2) 麦汁様の培地で、野生酵母の増殖を調べてみる(2/2) うーん・・・。あまり増えない。つまり麦汁をほとんど食べない。学生がつかまえた別のS. cerevisiaeたちも麦汁は食べませんでした。樹液の成分はスクロース(つまり、砂糖)らしく、マルトース食べなくても生きていけるんでしょうね。・・・というわけで、このままではビール作りには使えなさそうです。砂糖を発酵させるパンづくりには使えるかもしれません。これはちかぢか試してみます。 実験室酵母という「家畜」 ところで、この野生酵母を扱っていて面白いことを見つけました。YPD培地という栄養が豊かな培地で培養しているにもかかわらず、胞子を作っていたのです(下の写真)。出芽酵母の胞子は「四分子」、「テトラド」と呼ばれるように、細胞(というか胞子嚢)の中に4つの胞子が包まれた、テトラポッドのような構造になるので、目が慣れていたらすぐに分かります(黄矢印)。 富栄養(YPD)培地でも胞子形成する野生酵母。黄矢印が胞子嚢で、赤矢印がはじけた胞子 これは、(私のような)S. cerevisiae研究者にとっては、「非常識」です。実験室酵母でこんなことがおきるのは見たことがありません。しかも、よく見ると胞子嚢が破れて胞子が外に出てきています。これも、超非常識。「S. cerevisiaeの胞子は出てこない」といわれている。 こういうのに遭遇すると、逆に実験室の酵母がおかしいんじゃないかと思えてきます。つまり、人間が酵母を遺伝学のモデルとして扱う際に、1)胞子を作って欲しいときに胞子をつくり、普段は作らない、2)1つの親から作られた四分子を取りだして解析しやすいように、胞子が勝手にばらけない、という性質をもつ酵母株を人為的に選んできたのではないかと。 確かに野生の酵母の生存戦略から考えたら、栄養がなくなり始めたらさっさと耐性が高い状態(胞子)になった方が良いし、胞子嚢は勝手に破けて離散した方が良い。人間が実験に使いやすいように育種された、いつも栄養が与えられている環境で育てられている実験室酵母の生き様こそ「非常識」だった。まさに、「実験室酵母という家畜化酵母」だったのだろうと。 最後に:野生酵母をビール酵母にできるか? 以上、今回初めて野生のS. cerevisiaeを手に入れることができたのですが、いろいろ学ぶことが多かったです。この次は、「この酵母を麦汁を発酵できるように変えて、それでビールをつくってみる」という秘策(?)を考えています。もしうまくいったらまたこのブログで紹介したいと思います。 最後に、RPS12遺伝子による酵母の種同定について教えて下さった山口大学の星田尚司先生にこの場を借りて御礼申し上げます。 Share on FacebookTweet(Visited 45 times, 45 visits this week) 実験結果 酵母
Evidence for widespread adaptive evolution of gene expression in budding yeast. 2010-02-10 Fraser HB, Mose… Read More
Alternative splicing of PTC7 in Saccharomyces cerevisiae determines protein localization. 2010-04-20 Juneau K, Nislo… Read More