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2026-01-242026-01-24

自然界から酵母をとってくる(前編)

酵母は多様性のある生き物、自然界にも結構いる

最近の酵母研究の大きなトピックの1つに、酵母の多様性があります。ゲノム解析をはじめとしたオミックス解析が大きく発展してスループットが上がった、つまり沢山の検体を一度に調べられるようになりました。実験室で使われてきた酵母だけではなく、自然界や発酵産業で使われてきた酵母についてもそういう技術で調べてみると、酵母がどこからやってきてどんな風に広まっていったか、人間が発酵産業で飼いならし(家畜化)している間にどういう風に性質が変化してきたかが分かります。それだけではなくて、酵母が酵母であることを決めている「コアな遺伝子」は何か、特定の酵母株だけがもっている性質や遺伝子は何かということも分かってきます。特に、パンやアルコール発酵に使われる酵母(Saccharomyces cerevisiae)の多様性については、Joseph Schacherer氏らの1000種類を超える分離株の研究が有名です(最近の論文はこれ)。

S. cerevisiaeを手に入れようと思ったら、一番簡単なのはスーパーに行ってドライイーストを買って増やせば良いです。これは、パン作りのために人間が家畜化してきた酵母株の1つです。S. cerevisiaeはわりと自然界にもいることが分かっていて、これを天然酵母や野生酵母、自然酵母といったりします。いわゆる「天然酵母パン」はそういった自然界から得られた酵母の中で、特にパン作りに使えるものを選んで作ったパンになります。ただ、ドライイーストで使われている家畜化酵母だって、もともと自然界にいたものを人間が飼いならしてきたわけで、天然酵母との違いは何なんだと言うことになるのですが、そこら辺は実は曖昧。歴史の長い安定した大企業と、起業したばかりのベンチャー企業の違いみたいなイメージかもしれません。

前置きが長くなりましたが、要するに自然界にもほかの酵母に混ざってS. cerevisiaeはいます。「ほかの酵母」と言ったのは、「酵母」は単細胞のカビやキノコの仲間の総称で、2,000種くらいいると見積もられているからです。酵母=S. cerevisiaeではなくて、いろんな酵母の中で特にアルコール発酵能力が高くて人間がありがたく使ってきたものがS. cerevisiaeだということです。

近所の山で、酵母がいそうなサンプルを集める

さて、そいうわけで自然界にもS. cerevisiaeがいるので、今回はそれを採りに行ってみようというエントリーです。これまでも私の研究室では何度か自然界から酵母を採ることをやってきたのですが、S. cerevisiaeはめったにとれません。今回は成功するのでしょうか?

研究室のハイキングもかねて近所の山に登って、適当に「いそうな」ところからサンプルを取ります。暑さを避けて12月に登ったので、花はほとんど咲いていなくて実がなっている植物がちらほらありました。この時期の酵母は盛んに増えていなくて、暖かい季節に何らかの状況で増えてその後胞子になって眠っているのだろうと想像します。

よく、花や木の実から酵母がとれたりしますが(私もやったことがある)、そういうきれいなところでは酵母はほとんど増えないはずで、たまたま風や虫なんかが運んできた酵母がとれただけだと思われます(イメージが良いのでそれをビール作ったりするのに使うけど、実は由来にはほとんど意味がありません)。

ということで、「酵母の(発酵)活動のなごり」と思われるところを今回は積極的に狙います。腐葉土、朽ちた木、落ち葉など、私は6サンプル取りました。

①腐葉土
②樹液が固まったもの
③朽ちた木
④落ち葉
⑤朽ちた木
⑥腐葉土

この中で、今回はクヌギの木の樹液(が固まったもの)をゲットしました(上の写真②)。「発酵野郎!: 世界一のビールを野生酵母でつくる」にも書かれていますが、樹液にはS. cerevisiaeがいることが多いようです。樹液には糖がたっぷり含まれていて、夏場にはさぞかし沢山の虫が集まっていたでしょう。たぶんですが、樹液が発酵して発生するアルコールも含めた「良い匂い」が虫を集めるのでしょう。つまり、酵母がいる可能性大。私も子どもの頃は樹液が出ている木を狙ってカブトムシやクワガタムシを捕りに行ったものです。樹液が出て酵母が発酵して虫を集め、それに子どもが集まる。酵母はやはりすごい。そして今回はその酵母が目当てです。

実験室で酵母を増やす(1)ー液体培地での集積培養

さて、持ち帰ったサンプルから酵母を取ろうとするわけですが、そのままで酵母(だけ)を見つけることはできません。いろいろな混ざり物の中にちょっとだけ酵母がいる(はずだ)からです。なので、まずは見えない酵母を増やしてやります。サンプルは自然物ですから欲しくない微生物が沢山いるはずで、そういう邪魔者にはいなくなってもらって酵母だけを増やします。そこで培地を工夫します。細菌を殺すけど酵母を殺さないことが分かっている抗生物質と、カビを殺すけど酵母を殺さない防かび剤が入っていて、糖と栄養も入った液体培地をサンプルに加えて、暖めておいておきます。酵母だけを増やそうとするこの作業を、「集積培養」と言います。

試験管の蓋はあえてしっかり閉めておいて、蓋を開けた瞬間に泡立つかどうかで発酵したか判断します。待つこと1週間。培地が濁っているものとそうでないものがあります。濁っているものにはたぶん何らかの微生物が増えているんでしょう。

集積培養で酵母を狙って増やす

さて、蓋を開けてみます。

・・・キター!! 樹液、すごい泡です。樹液に糖がたくさん含まれているから培地だけよりも発酵しまくってるんだと思います。蓋を開けていると試験管から泡があふれ出るほどです。

樹液サンプル、発酵しまくってる!

この他にもそれなりに泡をだすものがあり、3つのサンプルが残りました。培地を一部とって顕微鏡で見てみると。・・・確かに酵母が沢山増えています。さて、次にここから酵母だけを取り出しましょう。

液体培地での集積培養で増えた酵母

実験室で酵母を増やす(2)ー寒天培地でのコロニー単離

酵母が含まれると思われる培地サンプルを、今度は寒天の平板培地(プレート)に塗り広げます。この培地にも抗生物質と防かび剤が入っています。この時、均一に塗るのではなく、わざとムラを作るように塗る(画線する)のがコツ。そうすると酵母のコロニー(細胞集団)が分離できます。コロニーは1つの細胞が増えたものなので、コロニーがほかのコロニーから離れていれば、うまく1つの菌種が分離できたということになります。

2ー3日ほど30℃で増やしてやった結果が下です。

寒天培地での培養

おお、クリーム色でつやつやの酵母のコロニーが生えてるじゃないですか! プレートからはほんのりと良い香りもします。さっそく顕微鏡で見てみましょう。④は大きいコロニーと小さいコロニーがあるので違う酵母が混ざっているかもしれません。二つとも見てみます。

①
②
④大
④小

どれも出芽酵母であることが分かります。拡大率は違うのですが、①は②と④の大よりも少し細胞が小さい感じ。④の大小コロニーはやはり違う酵母みたいで、④小はとんがった形をしています。それ以外は丸くて可愛く、S. cerevisiaeの期待感が高まります。

・・・というわけで前編は終了です。後編では、これらの酵母が何という種の酵母なのか、遺伝子を解析して種の同定を行っていきます。最後に、このエントリーで用いた酵母選択用培地の組成について教えて頂いた岡山県立大学の田中晃一先生にこの場を借りて御礼申し上げます。

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