2018-11-142023-04-12 微生物実験でのイエローチップの(驚くべき)使い方 今日は実験手法についてのエントリーです。 マイクロピペッター用のイエローチップ、私の研究室では微生物実験に使っています。下の写真は大腸菌の液体培養。ピペットマンにイエローチップをつけて、チップで寒天培地上のコロニーをちょんと突き、そのままLBamp培地に落とし込みます。 イエローチップでコロニーを付き液体培養に持ち込む 大腸菌や酵母をプレートに塗り拡げる(ストリークする)ときにも使います。少し斜めにチップをもって塗り拡げてやるとうまくストリークできます。 チップで微生物を塗り拡げる。チップのお尻を上から持つのがコツ。 滅菌処理をした爪楊枝や白金耳が必要なくなるし、チップのプラスチックは微生物細胞との相性(細胞の絡みつきやすさ)も結構良いようです。 こういう使い方は、現代の分子生物学ラボでは結構やられているのかもしれません。 こういうイエローチップの使い方をしていた私ですが、少し前にカナダの研究室に行って感激した使い方があります。それは、イエローチップをスプレッダー(微生物を塗り拡げる道具)として使う方法でした。スプレッダーの作り方は超簡単。プレートの蓋にイエローチップを強く押し付けるだけ。チップが折れ曲がって、ちょうどよいスプレッダーになります。 イエローチップをシャーレの蓋に押し付ける ギュッと押し込むとチップが折れ曲がる スプレッダーとしてちょうどいい! チップの先が引っかかって寒天培地を傷つけてしまうように思うのですが、曲がり具合と曲がったところの「腰」の柔軟性も相まって、驚くほどうまくぬれます。学生実習でも試してみましたが、寒天培地の扱いになれていない学部生もだれも寒天を引っ掻いて壊してしまうことはありませんでした。 一般的には、この作業はガラスのスプレッダーでおこなうことが多いです。滅菌のためにスプレッダーにアルコールをつけて炎であぶり再利用するします。うっかりするとアルコールに火が燃え移ることがあり潜在的には危険な作業です。チップを使えば炎を使う必要がなくなるので、安全面でもメリットがある方法といえるでしょう。 イエローチップがあれば、微生物実験で古典的に使われてきた3つの道具は必要なくなるかもしれません。チップは使い捨てだからその分のコストは掛かりますけどね。 ーーーー 2024.4.11追記 スプレッダーとしてのイエローチップの使い方(作り方)について、いくつか懸念のコメントを頂きましたので、回答のエントリーを追加しました。 コメント1:「押し付けて折る方法、素朴にピペッターがダメになりそう感」 回答:実際にやってみたら分かりますが、思った以上に軽い力でチップが曲がります。「少なくともチップを装着するときにかかる力よりは弱い力で曲がる」という感覚があったのでこれまでやってきました。 それで今回、実際にかかる力を測ってみました。チップを装着するときに上からピペッターを押しつける力が2kg 〜 3kg、チップを曲げるのに必要な上から押しつける力が2kg弱でした。 チップを装着するときの押しつける力は人によって違うと思いますが、少なくとも私の場合にはこれまで何万回もやってきたチップ装着の力よりは弱い力でチップを曲げられるということになります。 これでピペッターがダメになるのであれば、ピペッターをもう少し丈夫なものに変えた方がいいかもしれません。 コメント2:「道具を本来の使い方から逸脱するのはよくない。道具を痛める要因になる。」 「道具の本来の使い方に縛られて必要ない道具まで使ってませんか」、というのがこのエントリーの目的でもあります。今回で言えば、「爪楊枝、スプレッダーはチップで代替できるからベンチはスッキリしますよ」、という意図もあります。 それはさておき、このコメントも「道具(ピペッター)を痛める」という懸念のコメントです。上に書きましたが、ピペッター通常の運用の範囲内の力しかかからないので、これでピペッターがダメになることはないと私は思います。 ですが確かに、「ピペッターという高価な実験器具を用途外で粗末に(?)扱うな」、という考えあるでしょう。教育的に良くない気もします。 それで、ちょっと考えてみたのですが、要はイエローチップがつく棒状のものだったらなんでもいいという簡単なことに気づいてしまいました。 ・・・割り箸でできました!! 割り箸に イエローチップで スプレッダー 操作的には、持ち替えがないのでピペッターでやった方がスムースです。私の場合には、ピペッターを持ちっぱなしで菌液をまいてスプレッドまでやってます。以前見た、カナダの酵母の大御所ラボでもその操作感でやっていました。 ・・・というわけで、利便性と価値観を考えてこの方法を採用するかを考えていただければと思います。 (Visited 13,432 times, 23 visits this week) テクノロジー 実験結果