シリーズ過剰発現・第5回「過剰発現に用いられるプロモーター」

本エントリーでは、出芽酵母の過剰発現で用いられるプロモータについてすこし詳しく解説します。

プロモーターもいくつかに分類できます。恒常的(構成的)に強く発現するプロモーター、これは解糖系酵素TDH3/のプロモーターやアクチンACT1のプロモーターなどがあります。TDH3のプロモーター(歴史的にGPDプロモーターとも呼ばれる)は酵母の中では最強のプロモーターです。出芽酵母のプロモーターの強度については以前のエントリーに書きました。

次に条件依存的に強発現が起きる誘導性のプロモーター。出芽酵母では後に詳しく解説するGALプロモーターがよく使われます。その他、人工的に作られたTetプロモーターやβエストラジオール誘導性プロモーターなどがあります。

出芽酵母でのシステマティックな過剰発現で用いられてきたプロモーターは、ほぼ GALプロモータの一択です。「ギャル」と読みます。GALプロモーターは、出芽酵母の GAL1GAL10の間に位置しています。GAL1GAL10は双方が反対向きになるようにORFが配置されており(図5-1)、これらの遺伝子の中間領域を用いると、双方向に2つ同時に遺伝子転写を誘導することができます。GALプロモーターは、培地中の糖源をグルコースからガラクトースに変えることで誘導が可能です。このプロモータにより駆動される発現は、グルコース培地ではグルコース抑制という現象により抑えられており、ガラクトース培地で強く誘導されます。このON/OFFのシャープさがこのプロモーターが好まれる理由です。

図5-1. S. cerevisiaeのGAL1 – GAL10遺伝子領域。これらの間に双方向プロモータにプロモータがある。

また、GAL1プロモーター発現強度を変えた(下げた)改変体も存在しています(Mumberg et ., 1994)。これにより、過剰発現の度合いを変えることができます。

ただ、ガラクトースへの培地変換を行う必要があること、ガラクトースの誘導により標的遺伝子以外の遺伝子の発現も誘導され、それがタンパク質の発現系に余計な負荷をかけることなどが懸念されていました。それでこのプロモーターを人工転写因子で認識できるプロモーター(βエストラジオール誘導性プロモーター)が開発されています。このプロモーターについては、筆者の以前のエントリーで説明しています。

良い誘導性のプロモーター、つまりOFFの時はきっちり発現を止め、ONになると短時間で強い誘導がかけられるプロモーターというのは、実はあまり存在していません。分裂酵母では長い間そういった、「よい」プロモーターの探索の旅が続いています。そのあたりについては筆者の以前のエントリーで書いてあります。

なお、少々古い本になりますが、酵母で異種発現に使えるプロモーターに関しては、Guide to Yeast Genetics and Molecular and Cell Biology (Part B)の [14] “Vector Systems for Heterologous Expression of Proteins in Saccharomyces cerevisiae” で詳しく解説されています。

次回に続く。

(Visited 420 times, 20 visits this week)

Leave a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください