シリーズ過剰発現・第3回「過剰発現を起こす3つの方法 」

前回は、ポストゲノムの主要なアプローチとして過剰発現実験があることを解説しました。本エントリーでは、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)で行われたきた体系的な過剰発現実験の例を説明し、それらがどんな特徴をもっているのかを見ていきたいと思います。

図3-1. 出芽酵母でのシステマティックな過剰発現解析の例

遺伝学実験が非常に発達した出芽酵母では、これまでに何度も体系的な過剰発現が行われてきました(図3-1)。これは筆者が抜き出したものであり、これ以外にもまだまだあります。これらは特に過剰発現ライブラリーを作成した研究、それをもちいて過剰発現により増殖阻害を起こす遺伝子・タンパク質を体系的に取得しようと試みた例です。過剰発現ライブラリーを使って、自分たちの研究に関係のある遺伝子・タンパク質を取得(スクリーニング)使用した研究は無数にあると思います。これらのライブラリーはプレゲノムのものとポストゲノムのものに分けることができます。そのキーワードは「アノテーション」です。

これらのライブラリーで使われている過剰発現法の具体的説明に入る前に、自然界で過剰発現はどのようにして起きるのか、あるいは人工的にどのように起こすのかを整理してみたいと思います (図3-2)。

図3-2.過剰発現を起こす方法

過剰発現が起きる、あるいは起こす方法は大きく分けて3つあります。(1)プロモータの変化、(2)コピー数の変化、そして(2)染色体数の変化です。

(1)プロモータの変化

後のエントリーで解説する予定ですが、細胞内で働くそれぞれの遺伝子・タンパク質の発現量は、ものによって大きな隔たりがあります。これらの発現量をきめる仕組み、メカニズムを解説するとまたエントリー1つ分くらいになると思いますが、主要なものは「プロモータの強度」という認識です。そしてほとんどの遺伝子の発現は、そんなに大量に発現しない強くないプロモータによって制御されています。ちなみに、プロモータの支配により遺伝子が発現する状態は 「drive(日本語では駆動?)」と呼ばれます。

話を戻しますが、つまりほとんどの遺伝子のプロモータは強くないので、それを強力なプロモータに置換するとその遺伝子は過剰に発現することになります。自然界では、遺伝子の染色体上の位置が変わり(転座し)、たまたま強力なプロモータの下流に遺伝子が組み込まれてしまったときにその遺伝子は過剰に発現します。そのたまたま起きた転座がその生物の生存にとって有利であれば、その転座はより観察されやすくなります。癌細胞ではこのような転座がしばしばみられます。

人工的に行う際には、転写を強力にドライブする、つまり沢山のmRNAの開始をうながすプロモータの下流に、標的の遺伝子を遺伝子組換えによってつなぐことにより過剰発現を引き起こします。この時しばしば、条件依存的に誘導されるプロモータを用います。ONとOFFの条件を分けたり、ONにしてからの経過を観察するためです。この組換えは、遺伝子操作をより簡便にするためプラスミド上で行うことが多いです。

この過剰発現はほとんどの場合、タンパク質が1つずつ、絶対的に過剰発現します。絶対と相対の違いは後のエントリーで解説します。

(2)コピー数の変化

また言葉の定義になって恐縮ですが、もともと遺伝子の実態が分からなかった頃に、親から子供に伝わる遺伝をつかさどる要素として定義された「遺伝子」、具体的にDNA上の何を指すのでしょうか? 実は難しい問題です。ATGからSTOPコドンまでのタンパク質をコードしているDNAの配列? では、転写される5’や3’の「非翻訳領域(UTR)」は? プロモータ領域は? プロモータ領域がなかったらそこから何も発現してこないから、それを親から子供に伝えても何もおきません。だったらプロモータも含めて遺伝子と言わなければならない?

自然界では遺伝子のコピー数多型(CNV)がしばしばみられます。CNVの多くの場合、同じ「遺伝子」の配列が、複数くり返して存在しています。同じ配列なのでコピーといい、その数はコピー数と言います。その遺伝子のコピーがプロモータ配列を含んでいるなら、コピー数が増えた分、その遺伝子の発現が増加することになり過剰発現の原因となります。CNVは環境適応に関係する遺伝子に多くみられます。機会があれば後のエントリーで紹介します。

このコピー数変化は、プロモータを含んだ遺伝子領域を多コピープラスミドに組み込むことにより人工的に引き起こせます。

基本的には多コピー化した遺伝子がコードする遺伝子が1つずつ、相対的な過剰発現を起こします。

(3)染色体異数性

通常、それぞれの生物が持つ染色体の数は決まっています。ヒトの場合は46本、出芽酵母の1倍体では16本です。その染色体の数が変わってしまうことを異数性(Aneuploidy)といいます。異数性が起きた際に、染色体数が増えてしまったら過剰発現が起きます。

癌では染色体数の増加をともなった異数性が頻発します。また、ダウン症候群は21番染色体が1本増えたトリソミーという異数性です。この異数性は人工的にも引き越すことができます。異数性による過剰発現では、増えた染色体上の複数のタンパク質が同時に過剰発現します。これは相対的な過剰発現と考えることができます。

今回はここまで。次回は、出芽酵母で上記の人工的な過剰発現がどのように行われてきたのかを解説します。

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