シリーズ過剰発現・第4回「過剰発現ライブラリーの種類」

前回の続きです。人工的に過剰発現を起こす方法、特に出芽酵母Saccharomyces cerevisiae のシステマティックな過剰発現実験に用いられた方法を解説します。これらは前回もお見せした、以下の論文リストで使われた手法です。

図4-1. 出芽酵母でのシステマティックな過剰発現解析の例

なお、「システマティック・体系的」の意味するところは、特定の標的遺伝子に絞って解析するのと対比して、標的を絞らずに多数の遺伝子を同時に、同じ実験系で解析したということです。

図4-2. 酵母でのシステマティックな過剰発現法の分類

図4-2は、図1の出芽酵母でのシステマティックな過剰発現実験にもちいられている方法を分類したものです。「出芽酵母」としていますが、他の生物でも過剰発現実験はだいたいこのようにしておこなわれるものと思います。これらは大抵、遺伝子1つずつ、プラスミド上にクローンした遺伝子(あるいはORF)を対象に行われますが、染色体上の遺伝子を標的として行うことが可能なものもあります。多くの場合、これらのどれかの手法を用いて過剰発現ライブラリーを作成し、それらが組み合わされた研究もありえます。

これらは遺伝子をプラスミドに組み込む(クローニングする)方法により、大きく2つに分けることができます。1. 実験ベースのクローニング、2. アノテーションベースのクローニングです。前者はプレゲノム、後者はポストゲノムの手法と言っても良いかもしれません。こういう分け方で言うと、後者にはさらにポストNGSの手法、バーコード化も含まれます。また、上記1と2の分け方ではなく、前回紹介した過剰発現の様式(プロモータ置換か多コピー化によってもこれらの手法は分類できます。今回は、上記1と2の分け方で過剰発現実験を見ていきたいと思います。

1. 実験ベースのクローニング

プレゲノムの実験ベースのクローニングでは、1-1. DNA断片をそのまま多コピープラスミドに組み込む方法、1-2. 切断されたDNA断片を強力で誘導可能なプロモータの下流に組み込む方法、1-3. cDNAを同様にプロモーターの下流に組み込む方法があります。

このDNA断片の調整は、超音波を用いた物理的なDNAの切断や制限酵素による部分消化によって行われ、結果として組み込まれたDNA断片は、中身を調べるまでは分からないランダムな配列となります。切断されたDNA配列は複数の遺伝子を含むことがあったり、遺伝子の途中から組み込まれたりすることがあります。これはあまり望ましくないようにも思えますが、こういうランダムさが意外な発見につながったりするから生物学実験は侮れません。

この手のランダムな断片が組み込まれたライブラリーは、基本的には混合してスクリーニングに用いられます。

出芽酵母の場合には遺伝子がコンパクトでイントロンを含む遺伝子も5%程度しかないので、遺伝子をcDNA化にして扱うことはほとんどありません。ただ、プレゲノムの時代には酵母においても「遺伝子領域」をうまく捉えるための良い方法だったろうし、ゲノムが複雑かつイントロンを大量に含む高等生物では「遺伝子」を手に入れるには現在でも有効な手段と言えます。

2. アノテーションベースのクローニング

対象とする生物のゲノムの全配列が解読された後(ポストゲノム)では、それぞれの遺伝子を含むDNA断片をPCRにより増幅し、クローンできます。出芽酵母のゲノムは1996年に解読が終了し、そこからはゲノム情報の注釈(アノテーション)をもとにそれぞれの遺伝子を組み込んでいくライブラリーが次々と作られました。それらは、2-1. 内在性のプロモーター(+ターミネーター)を用いるのか、2-3. プロモーターを改変するのかに大きく分けられます。これらの過剰発現の様式は、基本的に1の実験ベースのクローニングと変わらないのですが、技術の進歩に伴って、たんなる過剰発現ではなくいくつかの「細工」が加えられることが多いです。

その細工の例として、タンパク質の検出や精製、局在解析のためのタグの付加がよく行われます。グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HAタグ、His6タグなどがそれです。これらのタグは、N末端やC末端に付加されます。細工の組み合わせは膨大になるので、それを効率よく行うための移動可能な(Mobable)ORFのセットも出芽酵母では作成されました。そして、こういった過剰発現ライブラリーには、次世代遺伝学の特徴であるDNAバーコードが組み込まれた、2-2. バーコード化されたライブラリーも存在します。

これらのライブラリーは、クローンされた各遺伝子の中身が分かっているので、それぞれの遺伝子が過剰発現している株を個別に培養し、狙った表現型ですべての遺伝子を体系的にスクリーニングする実験に用いられます。これをより体系的に行うと、遺伝子機能のプロファイリングへと発展していきます(スクリーニングとプロファイリングの違いについは以下のエントリーで書きました)。

ところで、プレゲノムで主流だったランダムなDNA断片が組み込まれたライブラリーは、ポストゲノムに「整列化」されることにより再び利用用途が広まりました。つまり、(中身が分からないから)混ぜて使っていたライブラリーに組み込まれているDNA断片の配列を解読してゲノム上の位置を特定し、その情報をもとにランダムだったライブラリーを整列していきます。適度なオーバーラップを作って隙間なく並べれば、全ゲノムをカバーするライブラリーを作ることができます。これは、プレゲノムの技術で構築されたライブラリーに、ポストゲノムの技術でアノテーションをつけたのだということができます。

次回は、酵母の過剰発現で用いられるプロモーター、さらにゲノムのアノテーションにつて解説をしたいと思います。

なお、上記の過剰発現の方法が組み込まれた出芽酵母の遺伝子ライブラリーの具体例ついては、筆者の以下のエントリーでも解説していますので。それらも合わせて参照してください。

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