2025-01-232025-01-24 きっとうまく行くプレゼンスライドの作り方 はじめに このブログでは、プレゼンテーションの技術について紹介したエントリーがあります。これは私の経験で身付けてきたもので、また、私のプレゼンスタイルに合うように考えたものです。プレゼンスタイルは人それぞれ、ポリシーみたいなものもあるし、スキルによっても変わってくるので、「これが正しい」というやり方はないと思います。その上で、いろんなやり方を知っておくのが悪くないのも事実。というわけで、今回のエントリーでは私なりの、「きっとうまく行くプレゼンスライドの作り方」を紹介したいと思います。この方法を簡単に言うと、「プレゼンの最中に自分が見る情報と話す情報が同じになるようプレゼンスライドを作る」ということになります。 これは、私が指導している学生に必ず教えるやり方で、かならず身につけて欲しいやり方です。このやり方の最大の利点は、プレゼンテーション自体がすごくやりやすくなるところにあります。このやり方は、プレゼンの初心者とか、プレゼンが苦手だなと思っている人に特に役に立つでしょう。この方法で作れば、きっとプレゼンがうまく行くはずです。 まずはみんなが知っている「教え」から そのやり方について紹介するまえに、まず、いくつか前提となるものを解説しておきます。スライド作りでは、みんなが知っている「教え」のようなものがあります。それに私なりの考えを加えたもの、これをまず説明しておきます。 1枚1分の原則 プレゼンスライドを説明する時に、1枚につき1分で説明できるように作りましょう。1分で説明できないスライドは情報量が多すぎる、つまりゴチャゴチャしていることを意味します。1分以内で次のスライドに行ってしまうと(情報量が多いスライドの場合)聴衆がその内容を理解できないか、あるいはそのスライドの情報量が少なすぎることを意味します。 書いてあることは全て説明し、書いてないことは話さない 書いてあることを説明しないと、聴衆は「あの情報は何の意味があったのだろう」と迷子になります。また、上記の1分1枚の法則から考えれば、そのスライドはゴチャゴチャしていて情報量が多いのだと言うことになります。 書いていないことを話してもいけません。耳からの情報だけになり、集中できず伝わりません。 空白を憎め これはどちらかというとスライドデザインの指針です。スライドをきれいに見せやすいテクニックです。空白を埋めるように図や文字を配置すると見た目がきれいなスライドになります。それだけではなく、聴衆は空白があると、「そこに何かが入るべきでは?」と不安になります。4:3スライドなら縦2つに分割、20:9なスライドなら横2つに分割するとうまくおさまります。 長い文章は書かない、表現を工夫する 長い文章は書かないようにします。文字ばかり読まされると聴衆の集中力が切れるし、だいたい見た目が良くないスライドになります。キーワードをうまく残しながら、文章ではなく文字で情報を伝えましょう。 漢語と大和ことば、名詞表現と動詞表現うまく使うことで同じ情報でありながら文字数を減らすことができます。また、それで印象を軟らかくしたり硬くしたりもできます。確からしさがすこしなくなったとしても、わかりやすくしたいなら、大和ことばと動詞表現を使いましょう。学術的に正確な印象を与えたいと希望するなら、漢語と名詞表現を使用しましょう。 フォントや文字の大きさにこだわろう 文字のフォントは、ぱっと見て認識しやすいか(視認性)、文章が読みやすいか(可読性)によって分類されています。文字の大きさもわかりやすさに影響します。フォントや文字の大きさにも「意味」を持たせましょう。違うフォントや大きさが違う文字が使われていると、「それに何が意味があるのか?」と思ってしまいます。同じ種類の情報は同じフォント、サイズを使いましょう。 色に意味を持たせよう 人間は、色から多くの情報を得ています。色は人間の認知に無意識にバイアスをかけます。色に意味を持たせましょう。同じ種類の情報を持つグラフ記号や文字には同じ色を付ける工夫をしましょう。逆に、無意味に色を使ってはいません。同じ情報なのに違う色が使われていると混乱の原因になります。また、色覚により見えにくい色の組み合わせは避けるようにしましょう。 情報を重ねよう スライドプレゼンテーションは基本的に不連続です。スライドを切り替えるごとに前の情報は見えなくなり、まったく新しい情報が入ってきます。決まった時間で一番情報を多く伝えられるものは動画、動画は連続だから早く動いていても理解がしやすいのです。プレゼンでも、特に複雑な内容のプレゼンテーションの時には、1度に情報を全部出すのではなくて徐々に情報を重ねていきましょう。そのためアニメーションやスライドの分割をうまく使いましょう。 アニメーションは使いすぎないようにしよう アニメーションは諸刃の剣です。アニメーション効果が出たばかりの頃は、聴衆はそれを見て感心・感動しましたが、今はみんな慣れてしまって奇妙なアニメーション効果はむしろ逆効果です。アニメーションは、徐々に情報を重ねる時の「フェード」くらいにしておくのが良いと思います。 プレゼンテーションがうまく行くスライド ここまでは、スライド作りの教えでした。これを守ればおおよそ良い感じのスライドはできるはず。ただ、ここまでにないのは、実際のプレゼンテーションをどうやったらうまくできるか、です。「スライドを作った、それに合わせて台本を考えた、あとはひたすら練習!」、と思っている人、大間違いです。 ここで紹介する方法では、話すことと連動するようにスライドを作ります。「スライドを作る →話してみる →うまく話せないときはスライドを修正する →話してみる」、を繰り返していきます。この時にアニメーションをうまく使う。結果として、スライドができた時点で話すことも確定していて、台本はいりません。 きっとうまく行くプレゼンスライドの作り方、具体例 それでは、実際この方法で作ったスライドがどのようなものかを見ていきたいと思います。ちょうど、私の研究室の大学院生N君にそのやり方を教えたところです。これが良い例だったので、これを使って説明します。 まず、以下がN君が作ったスライドです。彼は「アニメーションをうまく使えない」ということでアニメーションは仕込まれていません。 N君作のスライド(本人の許可を得て掲載)。これを手術していきます。 彼は、このスライドのために以下の台本を用意していました。スライドに出てくる文字は太字で表しています。 そのために、構築した過剰発現系について説明します。行ったことは単純で発現強度を実現するために、二つの強力な過剰発現系を組みあわせました。 プロモーターについては、酵母のなかでもっとも強力なプロモーターの一つである、TDH3proを薬剤誘導可能にしたプロモーターを採用しました。 もう一つは、遺伝子つなひき法という手法で、通常のマルチコピープラスミドは、細胞あたり10コピー程度だが、これを100コピー以上に引き上げる手法です。 2段階のプラスミドコピー数制御と、薬剤誘導により広範囲かつ高発現、GFPで定量可能な発現系を目指しました。 それで、この系で実際にタンパク質の毒性を評価できることを確かめるために、I番染色体の80タンパク質について毒性測定を行いました。 この台本の何が最もいけないかというと、スライドの情報と関係していない言葉が多数あるし、スライドと台本の言葉が統一されてない。簡単に言うと、スライドに書いてあるとおりに話していない。目から入ってくる情報と耳から入ってくる情報に齟齬があります。これは、聞いている方も困るのですが、一番しんどいのは、話す方です。プレゼンの最中、自分が見る情報と話す情報が違うから、全部憶えておかないといけない。スライドと台本を別々に作るとこうなります。 これを手術したのが以下のスライドです。 「話すとおり」にスライドを作っていきます。台本は、(必要ないけど)こうなります。 この目的のために、私は、二つの強力な過剰発現系を組み合わせて、限界発現系を構築しました。 こちらが実験に使用したプラスミドです。これは、博士論文第二章の研究で開発したものです。 このプラスミドは、最も強力かつ薬剤誘導可能になっています。 また、gTOW法により、プラスミドコピー数を100以上に引き上げることができます。また、低コピーとコピーの切り替えも可能です。 それに加えて、Target ORFとGFPを融合し、タンパク質の定量も可能にしました。 こちらはこの限界発現量探索のイメージです。 低コピー条件と高コピー条件で、薬剤の濃度を変えることで、広範囲、かつ、いままでにない超高発現の探索、そして定量を可能にします。 本研究では、この研究の概念実証として、出芽酵母の第I染色体の80タンパク質を対象に毒性測定を行いました。 これ、スライドに書いてあること(太字)を順番に話すだけです。それ以外は流れを補うためのつなぎの言葉だけで、憶える必要はない。だから台本がいらない。スライドが完成した時点でそのスライドで話すことも決まる。 実際にはこのスライドにアニメーションが仕込まれています(動画を下に貼り付けました)。アニメーションはフェードだけです。書いてあることをそのまま読めばよいのが分かってもらえると思います。これは音声なしの動画ですが、音声なしで十分に情報が伝わると思います。で、だいたい1分(49秒)、スライドを左右に分けてアニメーションを使って情報を重ねていきます。 術後スライドによるプレゼンテーション(音声なし) もちろん、プレゼンがうまく行くように、「話す→スライド修正 →話す」を繰り返してスライドを作り込む必要があります。実際にこの手術、1時間くらいかかりました(私が作画に少しこだわったせいもあります)。だけど(だから?)、プレゼンでは自信を持って挑めます。 終わりに このプレゼン作成法、どうだったでしょうか? 繰り返しますが、プレゼンはスキルやポリシー、個性などもあるので、「これじゃなきゃいけない」と言うのはありません。このやり方は、話し手がいなくても伝わってしまうから、つまらないと感じるかもしれません。この方法でプレゼン作って指導教員に見せたら、「(アニメーションによる)チラ見せはやめて」といわれた学生もいるそうです。 ただ、この方法、話し手と聞き手に優しいことだけは確かです。「次へ」のボタンを押していくだけで、読むべき言葉がでてくるので、プレゼンが始まって台本忘れる恐怖からは間違いなく解放されます。英語のプレゼンにもまったく同じ手法が使えます。だから、「きっとうまく行く」プレゼンスライドの作り方なのです。練習はしっかりやっているのに、いつも本番がうまく行かないという人、この作り方でやってみたらうまく行くかもしれません。 Share on FacebookTweet(Visited 453 times, 11 visits this week) プレゼン資料