2024-11-232024-12-05 分生シンポ「システム生物学大反省会」をなぜ今行うのか? 来週開催される、第47回 日本分子生物学会年会(福岡国際会議場)の最終日(2024年11月29日)に、東京大学の姫岡優介さんと、「システム生物学大反省会(シス生反省会)」というシンポジウムを行います。 「システム生物学」が提案され、本年で約25年である。それではシステム生物学は何を残したのだろうか。その一部は、今日では殆ど意味がないものになり、また別の一部は、当たり前のこととして陳腐化したことだろう。一方で、未解決かつ重要な問題や、新しく見えてきた問題もあるに違いない。本シンポジウムでは、システム生物学の立役者達と若手研究者の対話を通して、過去の、そして未来のシステム生物学について考えたい。 当日あんまり時間がとれなそうなので、ここでなぜこのシンポジウムを企画したのかをここで説明したいと思います。 「システムバイオロジー(システム生物学・Systems Biology)」という学問領域は、ソニーCSLの北野宏明さんが2000年頃提唱され日本から始まった学問領域です(同時期にLeroy Hoodも同じようなことを提唱していました)。その考え方に同調して世界各国ではシステム生物学が盛り上がり、システム生物学の名前を関した研究所や大学の研究部門が生まれました。ところが、なぜか日本では、「そもそもシステム生物学ってなに?」、「既存の学問とはなにが違うの?」、「ただ新しげなことを言って研究資金を集めたいだけじゃないの?」という、既存分野からのネガティブキャンペーンもあったりして、システム生物学は学問領域としてほとんど定着しませんでした。日本にはシステムバイオロジーの学会もないし、日本分子生物学会でもシステムバイオロジーのセッションもありません。 そのネガティブキャンペーンの中心を担ったのが近藤滋さんです。例えば、2005年の第28回の日本分子生物学会年会(これも博多で行われた)で、近藤さんと上田さんが世話人をされた「システムバイオロジーとはなにか?」というワークショップをされています。このワークショップは私も演者として参加したのでよくおぼえています。 システムバイオロジーとはなにか 世話人:近藤 滋(名大・生命理学)、上田泰己(理研・CDB) これからはシステムバイオロジーの時代であるという。しかし、現状では言葉が先行気味で実際的な研究はそれほど多くないため、システムバイオロジーという言葉の定義もあいまいである。そもそも「生命現象をシステムとして理解する」とは言うが、それはこれまでやってきた分子生物学と何が違うのか?このシンポでは、実際の生命現象を解析する上で、「分子」でなく「システム」としての理解が必要となる具体的な実験例を紹介していくことで上記の疑問に対する答えを模索していきたい。 この後、「システムバイオロジーとはジンクピリチオン効果である」という近藤さんの有名なキャンペーン、第34回日本分子生物学会年会での「ジンクピリチオン祭り」へと発展していったのです。今考えれば近藤さんが暴れ回っていた当時の分子生物学会はハチャメチャでした(だけど楽しかった)。 実際には、近藤さんはこれらのキャンペーンを通じて、システム生物学と既存の生物学となにが違うのかを、よくわからずに浮かれている研究者達にちゃんと考えるよう促したかったのでしょう。その証拠として、今回のシンポジウムの演者の近藤、北野、金子、黒田による「システムバイオロジー(現代生物科学入門8)」が2010年に出版されています。 近藤、北野、金子、黒田による「システムバイオロジー」。2010年出版 そんなこんなで(?)日本ではシステム生物学があんまり定着した感はありません(そのあたりは東京大学の小林徹也さんのブログに詳しく書いてあります)。ただ、だから日本からシステム生物学がなくなったのか、というとそうではないと思います。むしろ、システム生物学の考え方は、当たり前のように生物学の中に溶け込んで、それぞれの研究者が自分の研究対象に対してシステム生物学的な考え方を背景に研究をおこなっている。だからわざわざシステム生物学と言う必要もない。そう解釈することもできます。 ただ、私見ではありますが、やはり「システム生物学」は何か他の生物学の分野とは違う異彩を放っている。生命の本質を知るために必要な考え方がそこにある気がする。あるいは、何かしらの「かっこよさ」のようなものを感じる。そこら辺は火付け役の北野さんのうまさなのかもしれません。 2001年に出版された、北野による「システムバイオロジー」。私はこの書籍でシステムバイオロジーに魅了された。 実際、それは現在の若い研究者にとっても同じなのかもしれません。それに気づいたのは、(私に比べればだいぶお若い)畠山さんと姫岡さんが、「システム生物学入門」というタイトルの書籍を出版したこと、これがまたが売れに売れているというのを聞いたからです。 「実は若い研究者はみんなシステム生物学をやりたいんじゃないか?」、「 今こそ再びシステム生物学とは何かを考える時なんじゃないか?」、これが姫岡さんにシンポジウムをやりませんかと声をかけたきっかけです。改めて(日本における)システム生物学がこれまでどう進んで来たのか、そしてどう進んでいくのかを、特に未来を担う若い人たちと一緒に考えたい。それが今回のシンポジウムの趣旨になります。 畠山・姫岡による「システム生物学入門」。この本が売れに売れているという(私の研究室の学生も買っていた)。 このシンポジウムでは、上記の大御所4名が全員発表します。彼らはシステム生物学の立役者でもある一方で、分野を定着させるには失敗した責任者(という意味では大反省)。だけど今回もおそらく、それぞれが好き勝手なことを話すはずです。 黒田真也さんは「My Systems Biology and Beyond」で、王道のシステム生物学な研究について話してくれるでしょう。近藤滋さんは、「ジンクピリチオン効果について改めて考える」で、システム生物学を再びディスるかも知れません。金子邦彦さんは独自にすすめられている普遍生物学をシステム生物学の1つのあり方として解説されると思います。そして北野宏明さんの演題は・・・「システムバイオロジー – AIのための科学、人間の科学ではない」。大きな爆弾が落とされそうな予感に震えます。 大御所4名に引き続き、若い研究者がこれからのシステム生物学を語ります。北沢美帆さんが「植物と大型藻類の形態の定量的解析:形態的柔軟性の理解に向けて」、上田唯花さんが「細胞ホメオスタシス・適応性における熱統計力学」という現在の、これからのシステム生物学の研究を紹介します。そして、システム生物学入門の著者の1人畠山哲央さんが「反省会が終わって、システム生物学が始まる」を大御所にぶち込んで、最後に総合討論という流れになっています。 生物学の個別のトピックを扱うわけではなく、分野そのものの過去と未来を問う、あらゆる研究者にとって意味のある、ここでしか聞けない議論が展開されることになるでしょう。間違いなく、今年度の年会で一番「荒れる」シンポジウムになるはずです。どんな展開になるのか予測もできません。オーガナイザーの1人としては少々ビビっている、というのが正直なところです。ぜひ会場に足を運んでライブ感をお楽しみください。 ーーーー 2024.12.5 追記 「シンポジウムを終えて」 シンポジウムにはたくさんの方に来てもらえて感謝です。基本的にはエンターテイメントとして楽しんでいただけていればと思います。会場は常に笑いが起きていて、大御所達は口々に「楽しかった」と言っており、参加した私の研究室の学生達は、「(システムバイオロジーをしている人は)みんなすごく元気だった」という感想を述べていました。大御所たちが好き好きに話したこともあり、結論として「もうシステムバイオロジーという言葉は使わなくても良いんじゃないか?」というような流れになってしまったところがあります。 ただ、そのあと冷静になって考えたのは、「現代のシステムバイオロジーはすでに大御所達の手を離れ、独自に発展を続けており、終わることはないだろう」ということでした。というのは、システムバイオロジーとは、「生命を、分子レベルから一貫したシステムとして理解(しようと)する」研究志向だからです。生命科学において、この志向が発展を止めないのは自明でしょう。なぜなら、結局のところ生命とはシステムなので、生命を理解すること=システムを理解することだからです。そして、そのためには生命システムを構成する分子について知らなければならないと同時に、それらの相互作用が生み出す振る舞いを理解しなければなりません。これはシステムバイオロジーの考えそのものです。 だから、「生命について研究している人はみんなシステムバイオロジーをやっているんだ」・・・という風には実はならなくて、やはりそこには明確な研究志向があると私は思っています。その一端は、「システム生物学入門」にあります。これを読んだら、普通の生物学と違うと思うはずです。「大反省」だったのは、その志向の重要性を伝える努力をここしばらく怠っていた(あるいは過去のこともあり遠慮していた?)ことであり、だから逆にその志向を直球で押し出した「システム生物学入門」が売れたことに驚いたのだと思います。 そういうわけで、このエントリーに書いたような過去のしがらみ(?)はすべて忘れて、「これが自分が考えるシステムバイオロジーだ」、という研究がどんどん現れてくることを期待しています(実際、本シンポジウムの若手3名の研究がそれでした)。私も来年の分子生物学会では、「これぞシステムバイオロジー」というシンポジウムを企画します。こういう気持ちにさせてくれたという意味で、「大反省会」をやって良かったです。 ーー 関連する過去のエントリー システムバイオロジーという研究志向 システムバイオロジーレベルのモデルは、真にAnalyticalでPredictableなのか? 「分子生物学」とはどんな学問分野なのか(システム生物学との対比として)? Share on FacebookTweet(Visited 1,644 times, 23 visits this week) システムバイオロジー 会議
Translation efficiency is determined by both codon bias and folding energy. 2010-02-10 Tuller T, Waldm… Read More