それはスクリーニング? それともプロファイリング?

先日とあるセミナーがありました。内容は、様々な条件でメタボローム解析を行いそこから得られた結果を考察するというものでした。解析結果の考察では、特定のメタボライトがその条件下でどのような化学反応を受けて変化しているかの考察事例がいくつも紹介されました。考察事例自体は理にかなったもので、私はその話をオミクス解析の考察としてはよくあるやり方だなと思いながら聞いていました。

ところが、そのセミナーの質疑応答で聴衆から、「そのどこが新規の発見なのか?」という疑問が呈されました。最後には、「それはサイエンスなのか?」というコメントまで出る始末。

ん? この展開どっかで経験したことがあるぞ。

そうです。私が数年前にとある場所でセミナーをしたときと同じリアクションです。そのセミナー以来、「なんであの人たちはこれを発見と思わなかったのだろうか?」と考え続けながらプレゼンを改良してきました。今の私の発表ではちゃんと発見と思えるようにプレゼンできていると思いたいです。ですが、おそらくオミクスの分野内でしかプレゼンしてこなかった人、特に学生などでは、かつての私と同じ壁(いわゆる「バカの壁」)にぶち当たってしまうのでしょう。

私はこれも、分子生物学とシステム生物学とのパラダイムの違いなんだろうと思います。そして、それを端的に表す言葉は「スクリーニング」と「プロファイリング」なんだと思います。

トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームなどのオミクス解析を様々な条件で行う。分子生物学のパラダイムでは、その生命現象を発揮するための新規分子や分子間相互作用を探索(スクリーニング)したい。それが主要な目的です。一方、システム生物学では、その条件で何が起きているのかを分子の振る舞いから推定(プロファイリング)したい。

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ここからは私の経験談です。

もう何年も前になりますが(今調べたら2006年でした)、今のアプローチで研究を始めた頃、とある講演会の発表で「プロファイリング」という言葉を使ってデータの内容を紹介しました。深く考えるでもなくその言葉が最適だと思ったから使ったのですが、私のあとに発表された酵母のフェノーム(表現型オミクス)解析の第一人者の大矢禎一先生は、「プロファイリングとは何か?」というところからプレゼンを始められたのです。なるほど「この研究はプロファイリングなのだ」ということを始めにきちんとわかってもらう、大矢先生はその頃からパラダイムの違いを明確に伝えようとしていたのでしょう。

もう一人、遺伝子相互作用を網羅的に解析しているChalie Boone先生は、「システム生物学の論文は paper in paperとすべし」とおっしゃいます。これは、「大規模な遺伝子の相互作用解析(プロファインリング)を行った後に新規遺伝子の発見(スクリーニング)も行って、その内容を同じ論文に書く」というポリシーで、システム生物学と分子生物学の両方の読者に訴えるというやり方です。前者だけでは理解してくれない研究者集団にうまく研究の価値をわかってもらうためのやり方でしょう。ただ私自身は、「大規模解析でわかることはそれ(新規の因子)じゃないだろ、そこでお茶を濁しちゃいかんだろ」と思いもするので、このポリシーには賛成しないのですが。

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同じトランスクリプトーム解析をやるにしても、分子生物学なら新規の遺伝子や発現制御のメカニズムを明らかにしたい、システム生物学なら実験の条件で細胞に何が起きているのかを説明したい。目的に明確な違いがあります。

システム生物学(オミクス解析)の立場でプレゼンする人は、気をつけてその違いを聴衆にわかってもらいましょう。聴衆は、立場の違う2つのアプローチが存在することを知っておき、そのどちらの話なのかを考えながら聞きましょう。そのためのキーワードは、「スクリーニング」と「プロファイリング」です。

 

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