Saccharomyces cerevisiaeの第VII染色体にコードされている小さな毒性のあるタンパク質

Small Toxic Protein Encoded on Chromosome VII of Saccharomyces cerevisiae.

Makanae K, Kintaka R, Ishikawa K, Moriya H. PLoS One. 2015 Mar 17;10(3):e0120678. doi: 10.1371/journal.pone.0120678. eCollection 2015. PMID: 25781884

手前味噌ですが、私たちの研究室から発表された論文について、裏話も交えて解説します。

私たちの研究室では、これまでに出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の6000の遺伝子すべての「コピー数限界」を測っています(この論文の超(長)解説はこちら)。この研究でやったことは、酵母の6000それぞれの「遺伝子領域」をプラスミドにつないで、そのプラスミドのコピー数を上げて、どこまでコピー数をあげたら細胞が死ぬかを調べようとしています。コピー数が上がると、そこにコードされている遺伝子/タンパク質の発現量が上がり、それがどれだけ過剰になったら細胞の機能に悪さをするのかを調べようとしているわけです。

ところで、「遺伝子領域」とはどのように決まるのでしょうか?ATGからSTOPまでの、タンパク質をコードしていそうな領域(Open Reading Frame:ORFと呼ばれる)を、遺伝子領域と言っていいのでしょうか?実はそういう簡単な定義だと、ランダムに生じるATGからSTOPがゲノム上に無数にあり、それが遺伝子領域に認定されてしまいます。それだとわけがわからんので、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の場合には、とりあえず「100アミノ酸以上のタンパク質をコードしうるORFを(一応)遺伝子としましょう」決めました。さらにそれが、発現しているか(その領域からmRNAやタンパク質が検出されるか)、近縁な酵母でも保存されているか、変異が入った時に酵母の増殖に影響があるか、などといった情報から遺伝子領域が確定されていきました(この辺りのことは以前のエントリーに書きました)。

私たちはとりあえず、データベースの情報をもとに遺伝子とされている領域をプラスミドにつないでコピー数の限界を測っていきました。そして、わずかにコピー数を上げただけで細胞の機能に悪影響を与える遺伝子(量感受性遺伝子)を同定していきました。念のため、それぞれの量感受性遺伝子のORFにフレームシフト変異を入れて、遺伝子を壊してやり、データベースで遺伝子と定義されているその遺伝子が量感受性遺伝子そのものであるかの確認をしました。すると、いくつかの遺伝子では壊してもやっぱりコピー数の限界が低い物がありました。これはデータベースに登録されている遺伝子以外の何か別の要素が低いコピー数の原因である(わずかに増やしただけで細胞の機能に影響を与える)ということを意味しています。

それは、DNAそのものかもしれません。そこから発現するRNAかも知れません。あるいは、データベースに登録されていない未知のタンパク質がそこから発現しているせいかもしれません。いずれにせよ、新発見につながることは間違いない。ということで、私たちはその領域を小さく刻んだり、そこにあるORFを壊したりしてみました。結局、既知の遺伝子と遺伝子の間に57アミノ酸からなる小さなタンパク質がコードされていて、これがたくさん発現すると細胞を殺すということがわかりました。

面白いことに、このタンパク質は近縁の酵母には存在しておらず、似たタンパク質も見つかりませんでした。このような種特異的なORFは「ORFan」と呼ばれています。これは孤児をあらわすorphanという単語に引っ掛けて、出生の分からないORFという意味で用いられています。ORFanはできたばかりの遺伝子で種の特異性を決めると考える人もいます。

というような経緯で、酵母で新しい遺伝子が見つかったので、ORFan Toxic when Overexpressed(OTO1)と命名しました。このタンパク質の本来の機能はまだわかりません。大量に発現するとエルゴステロールの合成系に影響を与えるのは確かなようですが。

ここからはマニアックな裏話です。

その1:テーマに関する紆余曲折

このOTO1の同定という研究テーマは、「何かよくわからない(タンパク質以外の)要素が量感受性を決めているようだね」という状態で、6000の遺伝子を解析した時に一旦終了しました。

それが復活したのは研究費を取るためでした。私たちは当初、「タンパク質をコードしていない(非コード)のDNAが細胞機能に悪さをしている」と考えていました。それは、この領域に近縁種で見られる保存されたコード領域がなかったことや、これまでの他のグループの解析でこの領域から発現するタンパク質が同定されていなかったからです。なので、「これは非コードDNAを研究対象としている新学術領域の研究申請としてぴったりじゃないか!」、ということで申請書を書きつつ研究を再開しました。

それで結局・・・実は非コードDNAではなくて、そこにはタンパク質がコードされていた!!

これがわかったのは、研究申請書を提出した後でした。申請書に嘘は書いていませんでしたが(その時点ではまだ非コードDNAと信じていたから)、「採択されたらまずくない?!」と心のなかで思っていました。

・・・幸か不幸か、この申請は不採択でした。

でもそのかわり、新しいタンパク質を見つけられたという結果になったわけです。

その2:論文発表に関する紆余曲折

上記のように、私たちは初めタンパク質ではない未知の要素を疑っていましたが、色々な実験結果から57アミノ酸のタンパク質につながりました。

ただ、「過剰発現すると細胞を殺す」という以外の生理的な機能が分からない。遺伝子破壊してもなんの表現型もない。しかも、このタンパク質が実際に発現しているという証拠が得られませんでした。だから人工的な操作によってこのタンパク質がたまたま発現してしまって、それが毒性を示すような、アーティファクトなのではないかと思っていたのです。

アーティファクトでも、ポテンシャルに細胞増殖を阻害する小さなタンパク質ということで、それはそれなりに新規だろうということで、このタンパク質に名前をつけることもなく論文を投稿しました。

するとレビューアーが、「いろんな条件で発現を調べてみなさい」、「細胞増殖を阻害するのがこのタンパク質の機能なんだから名前をつけなさい」というコメントをくれました。雑誌のエディターもそれに賛成。

ということで発現を調べてみたら、なんとちゃんとゲノムから発現しているという証拠が得られてしまいました。それならばということで、私たちも名前をつけることに賛成。酵母で長いこと研究を続けている私ですが、酵母はあまりにも調べつくされているので新しい遺伝子を見つけたことなど一度もありませんでした。なんとありがたいレビューアーの提案です。

ということで名前を考えました。酵母はアルファベット3文字と数字が基本です。どうせならばなんか面白い名前を付けたい。ちょっと考えたら出てきたのが上記のOTO1というわけです(なんか見た目が面白いでしょ?)。まあちゃんとそのタンパク質の機能も表していますし。

徹底的に調べられてきた出芽酵母のゲノムで、今まで誰にも見つけてもらえなかったORFan(OTO1)、私たちが見つけて名前をつけてあげました。

・・・なんかちょっとロマンチックじゃありませんか?

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3 Comments

  1. TM

    面白いです、特に近縁の酵母に保存していないところも。酵母研究者は「真核生物一般に保存」というお題目が大好き(or raison d’etre)だったりするので。

    似たような”ステルス遺伝子”がゲノムには他にも沢山あるんでしょうね。

    自分がやらないでも誰かが(すぐにも)やるだろう仕事は多いですが、これは守屋さんならではのお仕事だとおもいました(Moriyaism?)。

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  2. テツ

    SGDで出てこない…(´・ω・`)

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  3. hisaom (Post author)

    TMさん、お褒め(?)いただきありがとうございました。これからも誰もやらない変な仕事を目指します。

    テツさん、論文投稿前に名前を登録して、SGDにLocusも作ってもらったのですが、今はなぜか消えてしまっています。SGDに問い合わせたので何らかの対応をしてくれると思います。

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