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2016-04-072016-04-07

エネルギーが制限された状態では細胞質が固くなる。

A pH-driven transition of the cytoplasm from a fluid- to a solid-like state promotes entry into dormancy.

Munder MC, Midtvedt D, Franzmann T, Nüske E, Otto O, Herbig M, Ulbricht E, Müller P, Taubenberger A, Maharana S, Malinovska L, Richter D, Guck J, Zaburdaev V, Alberti S. Elife. 2016 Mar 22;5. pii: e09347. doi: 10.7554/eLife.09347. PMID:27003292

A glucose-starvation response regulates the diffusion of macromolecules.

Joyner RP, Tang JH, Helenius J, Dultz E, Brune C, Holt LJ, Huet S, Müller DJ, Weis K. Elife. 2016 Mar 22;5. pii: e09376. doi: 10.7554/eLife.09376. PMID:27003290

「細胞に対するイメージ」をガラッと変えてしまう研究というのはこういうのを言うのでしょう。こういう論文を読むと、とても興奮するとともに、今までの自分の知識を否定されたようで、「ナンテコッタイ!」と思わざるを得ません。

上記の2つの研究では、栄養が制限された状態では、通常の私達の細胞質の流動的なイメージとはまったく異なる、細胞質の物質の運動が制限された「固体のような」状態になる事を報告しています。

この細胞質の固体化現象は、基本的には栄養源(グルコース)を制限したり、エネルギー合成を制限したり、pHを下げたり、細胞のサイズを縮めたりすることで起きます。本質的には細胞のサイズが縮んで「分子の混み合いが高くなること」に起因しているようです。

これらの研究では、細胞内の分子の動きの観察で同じ手法が使われているのですが、こちらの細菌での研究が端緒のようです。この研究では代謝によって供給されるエネルギーのない状態では、細菌の細胞質での物質移動が著しく制限され「Glass-like」な状態になると言っています。

必見なのはこれらの論文で示されている動画です。条件を変えると細胞内の分子の動きが制限されるのがよくわかります。

さらに、びっくり仰天なムービーが!!

細胞質固体化条件では、酵母の細胞壁を取り除いても細胞壁があるときと同じ形のまま維持されてる!!

前者の論文では長細い分裂酵母の細胞壁を取り除きますが、pHが低い条件では細胞壁のないスフェロプラストがそのまま長細い形を維持します(Video 4)。私たちの常識(通常のpH条件)では、細胞壁がなくなったら細胞は丸くなるはずなのにぃ!

後者の論文では、意地でももともと丸い出芽酵母でやりたかったのでしょう。わざわざフェロモンでシュム―という長細い細胞を作られておいて同じ実験をしています。

これらの動画だけでも見る価値あります・・・というか動画だけ見たら十分かも。まさに百聞は一見しかず。

少し野蛮な喩えとしては、卵の殻を除いたらぷるんと丸くなるはずの中身が、タンパク質が変性しているわけでもないのに、ゆでたまごのように形を変えない状態になっているという感じでしょうか。

さてこの動きが制限される意義なのですが、前者の論文では動きが制限された状態では巨大なタンパク質の複合体ができる事を示しています。さらに、栄養が制限された状態で生き残るためにこの固体化ータンパク質の複合体形成が必要なのだろうと言っています。

さて、最後にちょっと気になるのは、この細胞質の固体化ー細胞の休眠状態が、それこそ「オレンジジュース程度の」pHの低下で誘導されるということです。休眠状態というのは、いわゆる「胞子」のような状態。・・・どこかで聞いた現象です。筆者らは酵母の他に細胞性粘菌の細胞でも同じ現象を見つけています。哺乳類の細胞のように大きな細胞ではこういう現象は見られていないようですが。こういう状態に置かれた時に、特定の遺伝子が発現するーそれが例の現象の本質だったりするのかもしれないと思ったり。
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