2014-05-042017-08-09 酵母の増殖フェーズとGFPの蛍光の変化 今回は、「論文として公開するほどのデーターではないが、公開しておいたら誰かの役に立つかもしれない実験結果」のエントリーです。 私たちの研究室では、yEGFP(酵母に最適化した強化型緑色蛍光タンパク質)を発現している酵母細胞の培養を長時間モニターしています。 この実験の最中に、酵母の増殖速度が著しく落ちるフェーズ(培地からグルコースが枯渇して、エタノールを使った増殖に変化するDiauxic Shift)で、GFPの蛍光が著しく落ちることをいつも観察していました(Fig.1)。 Fig.1 GFP fluorescence during yeast growth 緑色の線がGFPの蛍光、黒い線が酵母の増殖を表している。GFPの蛍光と酵母の増殖は、蛍光プレートリーダーで30分毎に測定している。赤い矢印はFig.2でタンパク質のサンプリングを行ったタイミングを示している。 「増殖フェーズが変わってGFPが急速に分解される」というのが一番ありえそうなので、Fig.1の矢印のところから一定数の細胞を集め、GFPのタンパク質量を電気泳動で調べました(Fig.2)。 Fig.2 Amount of GFP during yeast growth 酵母タンパク質のLDS-PAGEによる解析。矢印のところがGFPにあたる。レーン番号はFig.1のサンプリングタイミングを示している。左端は分子量マーカー。 Fig.2の矢印のところがGFPに当たるのですが、細胞のGFPの蛍光が下がっているにも関わらず、GFPのタンパク質自体の量はほとんど変わっていないようです。つまり、酵母の増殖フェーズの変化に伴うGFPの蛍光の変化は、タンパク質量そのものの変化ではなく、何らかの質的変化の影響によるものだと考えらます。 この原因として考えられる、1つの可能性は細胞内のpHの変化です。GFPの蛍光がpHに感受性があることはよく知られていることです。酵母のDiauxic shiftでは、発酵から酸素呼吸という代謝の大きな変化が起きることが知られており、それが細胞内のpHの変化を引き起こすのかもしれません。 なお、同じ実験を赤色蛍光タンパク質であるyERFPで行っても蛍光の急激な現象は見られません(Fig.3)。GFPほどのpH感受性が、RFPにないからかもしれません。 RFP fluorescence during yeast growth 赤色の線がRFPの蛍光、黒い線が酵母の増殖を表している。RFPの蛍光と酵母の増殖は、蛍光プレートリーダーで30分毎に測定している。 いずれにせよ、GFPを使って遺伝子発現などをモニターしようとする場合には、増殖フェーズによって蛍光強度が大きく変わることを念頭に入れておく必要があることを、この結果は示していると思います。 (Visited 2,117 times, 11 visits this week) 実験結果 覚え書き 酵母