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2013-05-092017-08-10

Wikipediaの「シグナル配列」はどこから来たのか?

シグナルペプチドとは、そもそもの意味は小胞輸送されるタンパク質が、合成されるときに小胞体に入り込むための「シグナル」となるN末端の短いアミノ酸配列のことです。Wikipediaでシグナルペプチドを調べてみると、今はどうやら小胞輸送に限らず、ミトコンドリアや核などの細胞内小器官への輸送をつかさどるためのアミノ酸配列にまで拡張された解釈になっているようです。

また、同じWikipediaのページでは、シグナルペプチドの配列について、いくつかの具体例が上がっています。

こういうのは大抵の場合、英語のWikipediaの方が詳しく、また多くの記述はそこから翻訳されている事が多いので、英語のWikipediaのSignal peptideに飛んでみます。そうするとなんか勝手がちょっと違っていて、やはり「膜輸送のトリガーとなる配列」がシグナルペプチドであって、ミトコンドリアや核輸送のそれは含まれていないようなニュアンスであります。どちらが正しいのやら(これはどちらでもいいですが)。

そして、「シグナルペプチドの配列」については、同じページ下の方にリンクされているTarget peptideという別のページに記載されています。予想通り日本語のページとまったく同じシグナルペプチドの例があります。英語では、(多分シグナルペプチドと区別するために)「Target peptide」と呼ばれているようですが。

さて問題はその先です。これらのシグナルペプチド(Target peptide)配列はどこから来たのでしょうか?誰がどのように発見して、どこに記述されたものなのでしょうか?

とりあえずいわゆる小胞輸送のシグナルペプチド:

H2N-Met-Met-Ser-Phe-Val-Ser-Leu-Leu-Leu-Val-Gly-Ile-Leu-Phe-Trp-Ala-Thr-Glu-Ala-Glu-Gln-Leu-Thr-Lys-Cys-Glu-Val-Phe-Gln-

を、うっとおしいアミノ酸3文字表記を1文字表記に直し、NCBIでBLASTサーチしてみます。すると、一番相同性が高かったのがヒツジの「αラクトアルブミン」でした。

alpha-lactalbumin [Ovis aries]
Query  1   MMSFVSLLLVGILFWATEAEQLTKCEVFQ  29
           MMSFVSLLLVGILF AT+AEQLTKCEVFQ
Sbjct  1   MMSFVSLLLVGILFHATQAEQLTKCEVFQ  29

 

だけど完全一致ではありません。2アミノ酸違います。念のためSignal peptideのデータベースでも同じ事をしてみましたが、結果は同じでした。

それではということで、この配列をGoogle検索してみました。

まず、ヤギの配列で検索すると、1件。学術論文の本文が引っかかって来ました。αラクトグロブリンにシグナルペプチドがあることを記載した論文でした。

ところが、Wikipediaの配列で検索すると、106件!どれもWikipediaと同じように「シグナル配列ってこんなものがあるのですよ」と紹介しているページばかりです。どれもこの配列がどこから来たのかレファレンスの記載がありません。恐らくオリジナルのページがあって、それ以外のページはそっから記載をコピペしたのでしょう。

私の勝手な推測ですが、3文字表記から1文字表記に起こすとき(もしくはその逆)、誰かがミスしたのではないでしょうか? Phe ←→ W、Gln ←→ Q ってわかりにくい変換ですからね。

ただ、一方でもしかすると、αラクトグロブリンのシグナルペプチドを改変して「よりよいシグナルペプチド」にしたものが、「Wikipediaシグナルペプチド」である可能性は捨て切れません。

もうちょっと調査を進めます。

—-

続いて他の配列についても見てみます。

 

  • 核局在シグナル(NLS):PKKKRKV

これは英語のWikipediaに出どころがあります。SV40 Large T-antigenです。

 

  • ミトコンドリア局在シグナル:MLSLRQSIRFFKPATRTLCSSRYLL
これは酵母のミトコンドリアのタンパク質の配列でした(以下)。
mitochondrial Cox4p [Saccharomyces cerevisiae]
Query  1   MLSLRQSIRFFKPATRTLCSSRYLL  25
           MLSLRQSIRFFKPATRTLCSSRYLL
Sbjct  1   MLSLRQSIRFFKPATRTLCSSRYLL  25

 

ペルオキシソーム局在化シグナルについては、そんなに種類がないからか逆に記載もある程度ちゃんとしているようです。

 

—

20160120追記

どうもこのWikipediaの配列は、有名な教科書「Molecular Biology of the Cell」に掲載されているテーブルと同じもの(転載?)のようです。ただ、Molecular Biology of the Cellでもこれらの配列の出処がどこなのかは書かれていませんでした。

 

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Comments (3)

  1. hisaom より:
    2013-05-09 2:00 PM

    New blog posting, Wikipediaの「シグナル配列」はどこから来たのか? – http://t.co/jZUXbe0xqI

    返信
  2. ma_ko より:
    2013-05-09 2:04 PM

    RT @hisaom: New blog posting, Wikipediaの「シグナル配列」はどこから来たのか? – http://t.co/jZUXbe0xqI

    返信
  3. tonets より:
    2013-05-09 2:12 PM

    RT @hisaom: New blog posting, Wikipediaの「シグナル配列」はどこから来たのか? – http://t.co/jZUXbe0xqI

    返信

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