シリーズ過剰発現・第7回「体系的な増殖速度の測定」

今回のエントリーでは、体系的な増殖速度の測定について解説します。例によって、出芽酵母の研究例の紹介です。

前回までに、プレゲノムのライブラリーとポストゲノムのライブリラリーを説明してきました。ゲノム上にアノテーションされているすべての遺伝子(遺伝子の定義は今後議論します)に対する破壊株ライブラリー、あるいは過剰発現ライブラリーが作成されるポストゲノムの時代になると、研究のコンセプトがスクリーニングからプロファイリングへと移行し始めます。つまり、なんらかの表現型に焦点をあてて、その表現型を示す遺伝子だけを取得してこようとする研究(スクリーニング)から、すべての遺伝子の表現型を(定量的に)取得しそれらを包括的に解析するという研究(プロファイリング)へのシフトです(スクリーニングとプロファイリングの違いについては以前書いたエッセイもご覧ください)。

例えば、過剰発現により増殖阻害が起きる遺伝子を取得したいとします。置換したプロモーターの活性OFF条件では酵母がコロニーを形成するが、プロモーター活性ON条件では酵母がコロニーを形成しないような遺伝子をライブラリーのなかから取得するのがスクリーニングです。これは、例えばプレゲノムの中身の分からないライブラリーが導入されている酵母株の混合物をOFFプレートにまばらに広げてコロニーを作らせ、それをONプレートに複製(レプリカ)するという方法で取得することができます。ONプレートで増殖しなかった株の複製元の株をOFFプレートから得て、その株が持っているプラスミドのインサートの塩基配列を決定します。

一方、ポストゲノムでは、中身の分かっているライブラリーを整列してOFFプレートにスポットし、それをONプレートにレプリカし、同様に増殖してこない株を選別することができます。この場合、スポットの位置情報から、塩基配列決定なしで遺伝子を特定することができます。まだこの段階ではスクリーニングです。次の段階のプロファイリングでは、増殖の速度まで測定し、「増殖を阻害する」という定性情報ではなく、「どのくらい増殖を阻害するのか」という定量情報の取得を行います。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。体系的な増殖速度(適応度と呼ぶこともあります)の取得には、大きく分けて3つの方法があります。3つめはまだ解説していない次世代遺伝学の研究手法なので、ここではポストゲノムの2つの方法(コロニーサイズの測定と液体培養)について解説します。

1. コロニーサイズの測定

図7-1. コロニーサイズの測定による増殖速度の測定

一つ目はコロニーサイズの測定によるものです(図7-1)。これは剣山のようなピンをつかって寒天培地上に細胞を少量スポットし、一定時間後のコロニー(細胞集団)の大きさを測定するというものです。現在、専用の機械も開発されており、最大1536株を一度に増殖させることができます。増殖後にプレートリーダーで画像を取得、ソフトウェアでコロニーサイズを計測します。図7-1はその例です。1株あたり4つスポットすることで、コロニーサイズのばらつきも評価できます。

この方法のメリットは、一度に多数の株について測定ができる点です。プレートの培養は大きな場所をとらないので、培養装置で何枚も同時に培養しておいて、あとで画像を一気に取得することができます。デメリットとしては、近接効果、つまり周りの環境の影響を受けるところです。隣のコロニーとは寒天培地でつながっているので栄養の取り合いが発生します。これはソフトウェア処理によりある程度回避できます。もう一つのデメリットは、測定タイミングの難しさです。当然培養時間を決めて測定しますが、前培養の条件などでプレートごとに増殖速度が違ってしまうことがあります。これは特に大規模解析で注意しなければならない「バッチ効果」というものです(別のエントリーで紹介する予定です)。これを避ける1つの方法として、最終的なコロニーの大きさではなく、コロニーの成長を定量する方法も開発されています。これにより増殖速度を算出することが可能となります。

2. 液体培養

図7-2. 液体培養による増殖速度の測定

もう一つの方法は液体培養による増殖速度の測定(図7-2)です。これはマイクロプレートリーダーを使うことが多いです。マイクロプレートの各ウェルで各株を液体培地し、その濁度の変化をマイクロプレートリーダーで時系列的に取得します。その濁度変化からソフトウェアを用いて増殖速度を算出します。

この方法の利点は、増殖速度が算出できることに加えて、物理的に各株が隔たっているので近接効果がないということがあげられます。欠点は、サンプル数が限られることです。写真は96穴プレートでの測定です。384穴くらいまではサンプル数を増やせるかもしれませんが、コロニーサイズ測定の数には及びません。また、経時的な増殖速度の測定のため測定装置を占有するので、大量の測定装置が必要となります。定期的にプレートを測定装置と培養装置間で移動させる自動化装置も作られていますが、コロニーサイズ測定のスケールには遠く及びません。

以上、本エントリーでは2つの体系的な増殖速度測定法について解説しました。次世代遺伝学ではこれとは違った方法で大規模並列に適応度の測定が可能になっています。これについては後のエントリーで解説します。

つづく。

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