Skip to content
酵母とシステムバイオロジー
酵母とシステムバイオロジー

A Blog for Yeast and Systems Biology

  • このサイトについて
  • 新着記事
  • サイトマップ
酵母とシステムバイオロジー

A Blog for Yeast and Systems Biology

2012-12-192017-10-25

分裂酵母で“使える”誘導型のプロモーターが見つかるのはいつの日か?

遺伝子の発現を自在にON/OFFできるプロモーターがあれば、そのプロモーターの制御下に自分の興味のある遺伝子をおいてやることで、その遺伝子の機能を多方面で調べることができます。

必須の遺伝子であれば、ON→OFF時にどんな死に方をするのかを調べられるし、ONのときに強力に誘導されるプロモーターにしておけば、過剰発現したときに細胞にどんな影響が及ぶのかを調べることもできます。

このプロモーターに求められることは、

  1. OFFの時には遺伝子発現をほぼゼロにできること。
  2. OFF→ON→OFFの切り替えが、簡便かつ迅速におきること。
  3. 発現のON/OFFの誘導をおこなう方法が簡便であり、目的のプロモーター以外への影響が少ないこと。
  4. ONの時の発現量が高いこと(この発現量を誘導因子の濃度などにより制御できればなお良い)。
  5. なるべく簡便に使えること(コンストラクションが楽なこと)。

などがあるでしょう。

出芽酵母(S. cerevisiae)には、GAL1という無敵の(?)プロモーターがあり、上記の1〜5の条件をほぼ満たしています。私たちの研究室ではこのプロモーター以外にこれに匹敵するプロモーターを捜していますが、なかなか見つけることができていません。そういう意味では「見つけた人は偉い」ということなのかもしれません(昔のボスだったりしますが)。

さて、分裂酵母(S. pombe)ですが、この生物ではなかなか良いプロモーターが見つかっていません。一番よく使われるのが、チアミンによって誘導をON/OFFできる、nmt1プロモーターなのですが、誘導に14-16時間もかかってしまうというデメリットがあります。その間に細胞も増殖してしまいますし、一次的な表現型を見ることが難しくなります。

もちろん分裂酵母の研究者もこれではいけないと思っていて、日夜プロモーターを捜し続けています。

で、2008年に我らがヒーロー(?)、J. Bähler氏らのグループが、ウラシルで応答する遺伝子をマイクロアレイで調べ、3つの遺伝子を見つけました(1)。urg(uracil-regulatable gene)と名付けられたこれらの遺伝子、機能は分かりませんが、壊しても酵母の増殖に影響はなく、なによりもurgのプロモーターは、上記の5つの条件をすべて満たしているものでした。誘導は数分、OFFもきれいです。

「これは使える!!」皆喜んだことでしょう。

ところが、です。その後の2011年に「urg1ローカスでの遺伝子発現の制御」という奇妙なタイトルの論文がでました(2)。この論文をちゃんと読んでみると、「がっかり」なことが書いてあります。urg1プロモーターをプラスミドにのっけたり、染色体の別の場所に動かすと、OFFがうまくいかなくなってしまうというのです。つまり、urg1の遺伝子発現の制御はクロマチン構造等の影響をうけるものだと言うことのようです(それに関連してか、3つのurgは染色体上でクラスターになっています)。

で、どうしようかと考えて、「じゃあ制御したい遺伝子をurg1の染色体ローカスに入れてしまえば良い」、というのがこの論文の主旨です。これでどうやら制御はうまくいくようですが、使い勝手が悪いですね。5の条件を満たさなくなってしまいました。

そこで、最近でた論文(3)では、いわゆる「合成生物学」を使おうということになりました。さまざまな生物で使われている、tetON/OFFを分裂酵母で使えるようにしたとのことです。tetONで、1時間程度で誘導がなされ、OFFもきれいにいっているようです。この論文では、「これでurg1のときのような面倒くさいコンストラクションがなくなる」といっていますが、ターゲットのプロモーターをtetOプロモーターに置き換えるだけじゃなくて、TetR/TetR’プラスミドも同じ株に入れなきゃいけないので、そう楽でもないだろうと個人的には思います。これからどれくらい広まるかですね。

それにしても、2008年に「いいプロモーターが見つかったぞ!!」っていう論文がでて、その罠を知らずに使っていたら、時間や労力を随分無駄にすることになりますね(すくなくとも3年間はトライした人がいたでしょう)。こういう少し前の論文がでたときには、「その論文がどの論文に引用されたか」という情報が非常に有力です。今回の場合で言えば、PubMedの「Related Citations」で、この一連の論文がでてきました。

分裂酵母の誘導型プロモーターを捜す旅はまだ終わりを迎えていないようです。そして今日もnmt1プロモーターが使われることでしょう。

 

<参考文献>

1. urg1: a uracil-regulatable promoter system for fission yeast with short induction and repression times. Watt S, Mata J, López-Maury L, Marguerat S, Burns G, Bähler J. PLoS One. 2008 Jan 16;3(1):e1428. doi: 10.1371/journal.pone.0001428. PMID:18197241

2. Regulation of gene expression at the fission yeast Schizosaccharomyces pombe urg1 locus. Watson AT, Werler P, Carr AM. Gene. 2011 Sep 15;484(1-2):75-85. doi: 10.1016/j.gene.2011.05.028. Epub 2011 Jun 2. PMID: 21664261

3. A new versatile system for rapid control of gene expression in the fission yeast Schizosaccharomyces pombe. Zilio N, Wehrkamp-Richter S, Boddy MN. Yeast. 2012 Oct;29(10):425-34. doi: 10.1002/yea.2920. Epub 2012 Sep 12. PMID: 22968950

facebookShare on Facebook
TwitterTweet
(Visited 3,836 times, 12 visits this week)
テクノロジー 論文 酵母

投稿ナビゲーション

Previous post
Next post

Related Posts

The 2010 Yeast Genetics and Molecular Biology Meetingにエントリーしました。

2010-04-13

バンクーバーで7月27日から8…

Read More

ジンクピリチオンの分子生物学的な効果

2011-12-12

いよいよ今週水曜日に、「ジンク…

Read More

タンパク質のダイナミクスを測る、蛍光蛋白質タイマー

2012-06-28

Tandem fluoresc…

Read More

コメントを残す コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

7 + thirteen =

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.

人気の記事

  • 出芽酵母と分裂酵母の基本知識 (185)
  • 大腸菌の形質転換ではヒートショックも後培養もいらない(こともある) (87)
  • 論文の図とレジェンドに見る悪しき伝統 (99)
  • ナノポアシーケンサーMinIONインプレッション (77)
  • 岐路に立つ酵母の栄養要求性マーカー (31)
  • きっとうまく行くプレゼンスライドの作り方 (37)
  • シリーズ過剰発現・第5回「過剰発現に用いられるプロモーター」 (42)
  • シリーズ過剰発現・第1回「過剰発現とは?」 (19)
  • 微生物実験でのイエローチップの(驚くべき)使い方 (26)
  • コドンの最適度はmRNAの安定性を決める主要な要因である。 (24)
©2025 酵母とシステムバイオロジー | WordPress Theme by SuperbThemes