酵母が持つ、放射線のダメージからDNAを修復する能力

原子力発電所の事故により、私たちは放射線の危険性に晒されている。

「放射能は細胞にダメージを与えるが、細胞はそのダメージを修復する能力を持っているので、少しくらいの放射線ならば浴びても大丈夫である」と、テレビでは解説されている。

私は酵母を(人まで含めた)細胞のモデルとして研究をしている。酵母はこれまでにも様々な「細胞が持つ能力」について詳しく知るために利用されてきた。そこで、「酵母をもちいて放射線ダメージからの修復機構について、何が分かってきたのか」を書いてみる。

酵母には、RADと名付けられた一群の遺伝子が存在する。これは、radiationの略であり、これら遺伝子が壊れると酵母が放射線に対して感受性になる。つまり、正常な細胞に比べて低い量の放射線に晒されても細胞が死んでしまうようになる。例えば、RAD50という遺伝子が壊れた酵母は、正常な酵母に比べて1万倍も放射線に感受性になる。

これを逆に言うと、RAD遺伝子は酵母の細胞が放射線によりダメージを受けた時にそれを修復させる為に必要な遺伝子ということになる。

細胞が放射線に晒されると様々なダメージがおきることが分かっているが、その中で最も深刻なものは、細胞の設計図である染色体の損傷である。染色体を作るDNAは2本のひもがらせん状に巻き付いたような構造をしている。放射線に晒されるとこのひもが切れてしまう。

切れてしまったDNAはもはや設計図として役に立たないために、異常な細胞(がん細胞)が生まれたり、あらたな細胞が生み出されないことになってしまう。それでは困るので、細胞は切れたDNAを修復する。

細胞がどのようにして切れたDNAを修復するのか。これを調べるために上述のように酵母を用いてRAD遺伝子の取得が行なわれた。文献を調べるとRAD遺伝子の取得は、1970年前後に盛んに行なわれていたことが分かる。

このときに得られた10足らずの遺伝子は、現代では、切断されてしまったDNAに結合し、鋳型となる相同なDNAとの間での「相同組換え」によりDNAを修復するために必要な酵素の遺伝子であることが分かってきている。

ところで、このRAD遺伝子とそっくりな遺伝子はヒトにもあり、酵母における役割と同じ役割を果たしていることが分かっている。また、ヒトで、この修復のための遺伝子の1つが壊れると、放射線に対して非常に感受性になるだけでなく、染色体の構造が不安定になり、発達の遅れや免疫不全、高頻度で癌が発生する事が知られている。

これは、細胞内でDNAの切断と修復は、放射線による障害以外の状況下でも常におきており、それを修復する活性は細胞にとって不可欠なものであるという事を意味している。

酵母でもRAD遺伝子に変異が入ると胞子(一種の子孫)の形成能力が著しく落ちる。

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