遺伝子の必須性は細胞の進化可能性にリンクした定量的特性である

Gene Essentiality Is a Quantitative Property Linked to Cellular Evolvability.

Liu G, Yong MY, Yurieva M, Srinivasan KG, Liu J, Lim JS, Poidinger M, Wright GD, Zolezzi F, Choi H, Pavelka N, Rancati G.

Cell. 2015 Dec 3;163(6):1388-99. doi: 10.1016/j.cell.2015.10.069. Epub 2015 Nov 25. PMID:26627736

遺伝子を破壊した時に、その遺伝子を持つ生物が生存できない時、その遺伝子は「必須(essential)である」と言います。

出芽酵母では2002年にすべての遺伝子の破壊株が調べられて、全体の18%(約1000の遺伝子)が必須であるとされました。

遺伝子が必須かどうかは、基本的には破壊株が取得できないことで判別します。酵母の場合には四分子(テトラド)解析ができるので、野生型なら生えてくるはずの4つの胞子のうち、標的の遺伝子が破壊された染色体をもつ胞子が生えてこなければ、その遺伝子は必須であると判断されます。

余談ですが、必須性の意味については昔から私なりに考えていることがあり、HPにエントリーを書いたことがあります。

さて、今回の論文なのですが、この「必須性」の定義にチャレンジした論文と言えます。必須と分類されている1106の遺伝子について、もう一度自分たちで破壊株を作り直し、破壊株が生えてこないか(本当に必須か)をもう一度精査に検証しました。

3ステップによる検証により、990は破壊した時に細胞の増殖が見られない「真の必須遺伝子」であることがわかり、88は壊すと「著しく増殖は悪いが増えることができ、かつ破壊株の増殖速度が一定でない」という性質を持っていて、これまでの必須の定義に当てはまらないことがわかりました。

ちなみに、「壊したら増殖速度が落ちるが、破壊株の増殖速度は一定である」時には、その遺伝子は必須ではない(non-essential)とされます。

これは、これらの88の遺伝子破壊株が「evolvable(進化可能である)」ことを示しています。つまり、標的遺伝子が破壊されたことを別の遺伝的変化によって補い、増殖速度を回復してくる(進化する)という性質を持っているということです。

ではどんな進化が起きているのでしょうか?

具体的に増殖速度が回復した遺伝子破壊株を調べてみると、多くのもので染色体の構成が変化していました。一倍体だったはずなのに、二倍体や四倍体になっていたり、染色体の一部や全体が倍化しているもの(Aneuploidy)もありました。

また、核膜孔複合体やSRP複合体などを構成する一群のタンパク質をコードする遺伝子の破壊株では、複合体ごとに決まった染色体の倍化が起きていました。これは、これらの複合体の異常が、それぞれ決まったメカニズムにより補償されるということを示しています。

実際、倍加した染色体上のBRL1の発現量が増えることが、核膜孔複合体の破壊株の進化可能性を補償しているという実験結果を著者らは示しています。

最後に:必須遺伝子と非必須遺伝子の中間に、「進化可能な必須遺伝子」があることを示したのが、この論文の最も大きなインパクトと言えます。

実は、増殖の遅くなる非必須遺伝子の破壊株でも、そのダメージから回復するため進化が起きることが知られています。この論文はこれまで必須とされてきた遺伝子のなかにもそのようなものがあることを示しているのです。

でもそうなると、「(進化可能な)非必須遺伝子」と「(進化可能な)必須遺伝子」の違いは本質的にあるのか?と問いたくなります。結局は、必須・非必須は不連続ではなくて、連続的に(定量的に)捉えなければならない性質なのでしょう。

その中でも「壊したらまったく生えてこない」という遺伝子はあり、それを明確に同定したということにこの仕事の真の価値があるのかもしれません。

ちなみにこの研究、酵母の解析の徹底的な自動化に取り組んでいます。でなければ1000を超える株の解析はできなかったでしょう。一方で、テトラド解析は手動でやらなければならないはずです。論文には「7600のテトラドを分けた」と書いてあります。恐るべき数です。

酵母の学会では、制限時間内にどれだけテトラドを分けられるかを競う「テトラド選手権」が開かれることがあります(勝者を紹介する動画)。テトラドをさくさくと分けていく技能は酵母研究者の証なのです(・・・という私はテトラド解析が苦手なのですが)。

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