2015-03-102017-08-09 3D printerでタンパク質の立体構造モデルを作る。 私は、標的のタンパク質の遺伝子に(構造に基づいた)変異を入れてその効果を調べるとか、そのタンパク質がどれくらい発現しているのかとか、そのタンパク質が別のタンパク質と結合するのか、といったことを調べていて、タンパク質の構造を直接解析している人間ではありません。 しかし学生の頃からタンパク質の構造には興味を持っていましたし、やはり自分が実験対象としている相手がどんな「顔」をしているのか、見てみたいという欲求は常にありました。 最近、3D printerがかなり廉価になり、研究分野での普及が始まっています。そして、3D printerのデータもネット上から手に入るようになってきました。 NIH 3D Print Exchange もそういうモデルデータをフリーで交換するサイトです。このサイトのトップの動画でも言われていますが、私も「研究者は3Dモデルから色々学ぶところがある」のだと思います。インスパイアされるといいますか。 そんなこんなで、3D printerでタンパク質のモデルを打ち出したい衝動が非常に高まっていたところに、部局で3D printerが導入されました。導入されたのは、UP Plus2です。16万円強で購入できます。 そこでこのブログは、全くの素人である私が、この3D printerでタンパク質の立体構造を初めて打ち出してみた体験をレポートします。 まずはセットアップ。シンプルな作りで特に苦労はありませんでしたが、セットアップの際に、プラットフォームが傾いていないか、ノズルの高さはどうかを測定してアジャストします(ある程度手動操作が必要)。後で出てきますが、ノズルの高さは結構大事なパラメータのようです。 セットアップが完了し、データをロードします。プリントするデータは、.stlというフォーマットが一般のようです。私は、http://www.thingiverse.com/ というサイトから、データファイルを入手しました(3D printerのフォーマットになっていない立体物データをどうやって変換するのかは、まだ私の技術ではわかりません)。2015.3.11 追記しました。 これも簡単に取り込めて、後はプリントするだけ。Macではプリントしようとしたらソフトウェアがクラッシュして動かず。Windowsではうまく動きました。ソフトも日本語なのでWindowsで動かしたほうが良いようです。 大きな音もせず(通常の2Dのプリンターより静かかも)、プラットフォーム上に熱で溶かしたABS樹脂を積み上げていきます。 プリント中の UP! Plus2 プリント時間は作るものの大きさによって違います。小さなタンパク質の片割れは1時間以内に終わりましたが、以下に紹介する糖の輸送体(トランスポーター)は数時間かかりました。 プラットフォームに打ち出されたトランスポーター 見てもらえるとわかるように、プラットフォームにはまず「ラフト」と呼ばれる土台が打ち出され、その上に実際の構造ができてきます。下側に何もない構造を下から打ち出していく場所には「サポート」が作られていきます。上の写真では左側に2カ所大きなサポートがあります。 プラットフォームから剥ぎ取られたトランスポーター プラットフォームからはぎとったものを下から見るとこんな感じ。これから、ラフトとサポートを外していきます。 「出来たて」を横から見たところ。ラフトとサポートを取っていきます。 サポートをとり始めたところ サポートは手やピンセットでもぎ取っていきます。サポートとラフトはABS樹脂の密度が低く作られているので、簡単にボリボリととれていきます。 取り外したラフトとサポートとともに。 サポートをほぼ取り除いたところ。今回は立体物をまるごと作ったので結構多かったです。底が平面になるように分割した球状タンパク質の場合にはここまでサポートはありませんでした。 はっきり言いましょう。この作業、めちゃくちゃ楽しいです。サポートを外すことでタンパク質がむき出しになってくる感じ・・・。恐竜の骨を掘り出すおもちゃがありますが、あんな感じでしょうか? モデルマニアに最後の手作業を残してくれる3D printer、なんと小憎らしい演出をしてくれることでしょう! 実はこの作業には、もう一つの大きな意味があります。 サポートの向こうに隠れているものは!? サポートがあるところ、というのはつまり3D構築が連続でないところ、つまりそこには何かの「穴」があるんです。タンパク質構造で穴といえば、何かが入り込むところです。 酵素で言えば基質結合部位や活性中心です。今作っているトランスポーターだと、輸送される糖が入り込んでいく穴です。サポートの向こうにはタンパク質の重要な機能部位が隠されているのです。ほじくっていくとどんどん穴が見えてきて、タンパク質の機能を見ているような気分になってきます。学習効果も素晴らしい。 誰かに依頼されて3D printを打ち出した時には、ラフトとサポートはつけて渡すべきですね。この楽しみも含めて3D printだと思います。 完成品(横から) 完成品(下から) というわけで完成品です。下から見るとずっと穴が空いているのが見えます。 二日目にトラブルが有りました。プリントしている最中に、対象がプラットフォームから剥がれてしまうのです。壊れるには少しや早すぎないかと色々いじりました。 最終的には、ノズルの高さを手動で調整してやることで問題は解決しました。ノズルがプラットフォームから離れすぎていたようです。近くするとラフトがしっかりとプラットフォームにくっつきます。ただ、近すぎるとラフトがプラットフォームからはなれないので注意です。 以上、「3D printerでタンパク質の立体モデルを打ち出してみた」レポートでした。これで色々なタンパク質を打ち出してみたいと思います。 最後に・・・。 3D printerの導入に当たって、東京工業大学大学院生命理工学研究科・教授の田口英樹先生に色々と教えていただきました。田口先生のブログにも3D printerのことが書かれています。この場を借りてお礼申し上げます。 ーー 2015.3.11 追記 タンパク質の立体構造データを 3D printer 対応のファイルフォーマット(.stl)に変換する方法です。 基本的には、このページを参考にしました。(単色で打ち出すのに)必要なのは、PDBの立体構造データを、フリーのソフトである UCSF Chimera で編集して.stl ファイルとして保存するだけ。結構簡単でした。 Share on FacebookTweet(Visited 2,336 times, 4 visits this week) エッセイ テクノロジー