遺伝子発現レベルが増殖に及ぼす効果の大規模並列調査

Massively Parallel Interrogation of the Effects of Gene Expression Levels on Fitness.

Keren L, Hausser J, Lotan-Pompan M, Vainberg Slutskin I, Alisar H, Kaminski S, Weinberger A, Alon U, Milo R, Segal E. Cell. 2016 Aug 25;166(5):1282-1294.e18. doi:10.1016/j.cell.2016.07.024. Epub 2016 Aug 18.PMID:27545349

「遺伝子(タンパク質)の発現量をどれだけ上げたら細胞は死ぬのか?」

これは私が自分の研究を紹介する時によく使うフレーズです。

その背景にあるのは、「ロバストネス(頑健性)」という概念で、生命システムで使われている遺伝子発現などのパラメータが多少変動しても生命システムは安定に維持される(といわれている)というものです。これを実験的に調べることを可能にした「遺伝子つなひき(gTOW)法」という実験手法を端的にいうと、上記のフレーズになるのです。

ですが、本当は変動が知りたいわけですから、上げるだけではなく下げることもしたい。しかも、上げたり下げたりした時に生命システムがどういう応答をするのかもちゃんと捉えたい。でも、それは現代の技術では難しいから(あるいはとても大変な実験が必要だから)、「どれだけ上げたら細胞が死ぬか?」という、ある意味妥協をしたわけです。

ただ、言い訳をさせて頂くと、gTOW法はそれでも結構知恵を絞って作ったものですし、非常に手間の少ない一回の実験で対象としている遺伝子の発現の上限が測れるという大きなメリットがあるのです。そのトリックは「酵母に決めさせる」ということなのですが・・・。

話がそれましたが、その「上げたり下げたり・・・その時システムがどう応答するか」をやってしまったのがこの論文です。

正直、この論文を読んだ時、「うわ〜これがやりたかったんだよな〜」と思いました。(ですがしっかり論文を読むと、「うわ〜こんな手間のかかることやりたくね〜」とも思うわけですが・・・。)

この論文で著者らがやったことを解説します。

上でも書いたとおり、「遺伝子発現をどれだけ変動させたら細胞の適応性(平たく言うと増殖)に影響が出るか?」ということを、上限下限だけではなく、連続的に調べたのです。

それをどうやって達成したか?

標的の81種類の遺伝子のプロモーターを、130種類の発現強度の違う人工プロモーターで置き換えました。そして、それぞれのプロモーターを持つ株の適応度をそれぞれのプロモーターを持つ酵母株を競合培養させ、プロモーター部位に組み込んだバーコードを次世代シーケンサーで読むことで算出しました。

データ、とてもかっこいいです。

通常の発現量からどれくらい隔たったら適応度が落ちるか(増殖が悪くなるか)、それが遺伝子ごとに出てくる。さらに遺伝子の機能や特性によってその「適応度カーブ」の形が違う。グルコースの培地では遺伝子発現は最適化されているけれど、ガラクトースの培地では最適化がなされていない。最適な発現量の幅が小さな遺伝子は遺伝子発現のノイズが小さいなどなど。

まあ実際、他の実験でも示唆されていたことではあります(と言うか私たちの論文でも同じこと言ってるんだから引用しろよ)。が、それが「発現可能変動幅のグラフ」として見せられるインパクトは非常に高い。

ほんと、「これがやりたかったんだよな〜」とは思うわけですが、競合培養とバーコードを読むことによる適応度の計算はいいとして、1つの遺伝子のプロモーターを130種類に変えた株をつくるというのは、ちょっとやっぱりとんでもなく大変な実験だと思うわけです。

ですが、「遺伝子発現の変動幅を調べる」という、「それやって何がわかるの?」といわれてしまいそうな、背景にロバストネス解析の概念がある実験を、相当な研究資金と労力を持ってやり遂げた(まだ81遺伝子しかやってないですが)、ということに私は感動を覚えました。

その一方で、私がやっている実験はこの実験と概念的にはまったく同じで、だけどももっと先行した論文を出しており、見つかってきたことに対しても先行してると思っていたわけなのに、引用されていないということに力不足を感じながら、もっと頑張ろうと思ったわけなのです。

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