2020-06-182020-11-12 シリーズ過剰発現・第11回「デノボ遺伝子誕生」 シリーズ過剰発現の「1. 過剰発現を理解するための背景」の最後のエントリーです。過剰発現について解説していくはずが、少し話がそれて遺伝子の定義の話になっています。その最後、最近の話題として、「デノボ遺伝子誕生」を解説しようと思ってこの項目を作ったのですが、この話ちょっとやそっとでまとめられないと気づきました。そこでこのエントリーでは非常に簡潔にデノボジーンについて紹介するにとどめたいと思います(ご希望があれば、がっつり解説のエントリーを作ります)。 これまで、遺伝子やORFがどのように定義されてきたかについて解説してきました。ゲノム上に、どれだけ・どんな遺伝子があるのかを追求していくと、遺伝子とそうでないものの境界線が曖昧になってくる。ゲノム解析の際に、とりあえず機能があるかどうか分からないけれど、それなりの大きさ(100aa以上)があるなら機能があるかもしれないのでORFとしてアノテーションしておきましょうと決められた。だけど、色々と機能解析してみると、これらのORFには機能を持つタンパク質はコードしていないDubiousなORFが大量に含まれているっぽい。・・・というのがこれまでの話でした。ところが最近、これをまたひっくり返すような話が報告され始めています。「これらの怪しげなORFに遺伝子の卵が埋まっているかもしれない」という話です。 そもそも遺伝子はどこからどのように生まれてきたのでしょうか? もっとも単純な仮説は、ゲノム上にたまたまORFができて(1)、それがたまたま発現(転写/翻訳)したら(2)、生物にとってなんか有利な働きを持っていた(3)、というところから始まるというものでしょう。これは多分、始原的な生き物のゲノムが構成されるときに起きた遺伝子誕生のシナリオのはずです。 この遺伝子誕生のシナリオ、別に今の生物のゲノムで起きていてもおかしくありません。この「新規な(=デノボ)遺伝子誕生」が、現存の生物のゲノムでも盛んに起きているという魅力的な考え方が最近広まってきています。特に、翻訳されているDNA領域を高精度・高感度に決定できるリボソームプロファイリング(Riboseq)という技術が開発されてからは、沢山の小さなORFが盛んに翻訳されていることが分かってきました。ただ、これらが機能を持つのか持たないのかははっきりしません。今から遺伝子になろうとしてる誕生前の遺伝子の卵なのかもしれません。100アミノ酸以上をコードしているDubious ORFはすでに上記の1の条件をクリアーしているので、遺伝子の卵の条件を1つクリアーしています。ここからどうやってデノボ遺伝子誕生が起きるのか、そこに研究者は注目しています。 デノボに遺伝子が誕生する場合には、その遺伝子がコードするタンパク質の発現が生物に不利益を及ぼさず(毒にならず)、有利になる必要があります。過剰発現実験によってあるORFを細胞内で人為的に発現したときに、それが害になるのか利益をもたらすのかという指標によって、「遺伝子の卵」はどんな性質を持っているのかを探る研究が可能ということになります。 デノボ遺伝子誕生に関して、Carvunisらの革新的な論文について以前のエントリーにも解説しています。 原始遺伝子と遺伝子の新生 というわけで、シリーズ過剰発現の1を終えたいと思います。この後、2. 具体例で見る過剰発現実験、3. 過剰発現は何を引き起こすのか? と続く予定ですが、今のところいつから連載を始めるかは決めていません。 Share on FacebookTweet(Visited 1,129 times, 3 visits this week) シリーズ過剰発現 用語解説
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