酵母の細胞周期制御に見られる量的不均衡が生み出す脆弱性

Fragilities caused by dosage imbalance in regulation of the budding yeast cell cycle.
Kaizu K, Moriya H, Kitano H.
PLoS Genet. 2010 Apr 22;6(4):e1000919.
PMID: 20421994

手前味噌ですが、私たちの研究室から発表された論文です。内容を紹介します。

細胞システムは一般的に遺伝子発現の変動に対してロバストであると考えられています。しかし、例えば酵母の細胞周期制御においては、CDC14フォスファターゼの発現が2倍程度上昇しただけで細胞は死んでしまいます(細胞はCDC14の発現変動に対して脆弱です)。本論文ではこの原因が、CDC14フォスファターゼ阻害遺伝子NET1との量的な不均衡から生じていることを、コンピュータモデルによるシミュレーションと生物学実験により証明しました。

一方、シミュレーションにより同様な脆弱性が予想されたセパレースESP1は、実際の細胞では100倍以上に発現を上昇させても細胞は死にません。私たちは、この原因が未知のESP1の制御によるものと考えさらに実験を行ないました。その結果、量的不均衡を回避するために阻害因子PDS1の量をダイナミックに変化させるメカニズムが存在していることが明らかになりました。

この研究では、一般的にロバストであると考えられている細胞システム内に「量的不均衡」という脆弱点が存在していることを示しました。CDC14の制御はこの脆弱点がむき出しになっているケースで、ESP1の制御はこの脆弱点が他の制御によって補完されているケースです。

多くの他のケースでは、ESP1のように脆弱性がむき出しにならないように細胞内ネットワークは進化するはずです。私たちは、CDC14の制御のようにむき出しになっているケースは、別の重要な機能の「トレードオフ」として理解できると考えています(これは今後の論文で発表予定です)。

最後に、私たちはこの研究を通じて発見したESP1の制御をコンピュータモデルに組み込むことで、実際の細胞により近いモデルへと改良することに成功しました。今後は、このような解析を繰り返すことで、究極のコンピュータ細胞の構築へと展開したいと考えています。

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